『アナ雪』にはひとりの女性アーティストへのオマージュが! 現在のディズニー映画の礎を築いた知られざる“女王たち”の功績

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公開日:2021/6/16

ウォルト・ディズニーの従業員へのメッセージ

 しかし1940年になると、女性従業員がスタジオの全従業員1023人中、308人(半分が仕上げ部門)となったことで、当時のハリウッドの大手スタジオよりもディズニースタジオでの女性従業員の割合は多くなっていた。スタジオでは女性の活躍の場が広がり確固たる地位を築きはじめたことで、「女性がからかわれたり侮辱されたりする不安のない会社にすることが願いです」というウォルト・ディズニーからのメモが回覧されたという。

 しかし女性の進出に脅威を感じた男性従業員は女性が自分たちの仕事を横取りしていると騒ぎ立てたために、1941年2月にウォルト・ディズニーは全社員を集めて言った。

私たちは安く雇える従業員には興味がない。興味があるのは腕のいい従業員だ。
女性アーティストにも男性と同じように成長のチャンスを得る権利がある。だから彼女たちはいずれ男性がなし得なかった何かをこの業界で確立すると、私は心から信じている。

 本書は女性アーティストと親交のあった人々からの聞き取りという形で構成されているため、女性を採用し続けた経営者のウォルト・ディズニーの真意については明確な答えが記されていないのが残念なところだ。だが人手不足かつ、常に資金難と借金まみれの綱渡りであったスタジオを支え、その卓越したクリエイティブと芸術性で現在まで続くディズニー作品の礎を築いたのが、彼女たちアニメーションの女王たちであったことは心に留めておきたい事実である。

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 2013年に、ディズニー映画『メリダとおそろしの森』が第85回アカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞したが、監督のブレンダ・チャップマンは、この部門で史上初の女性受賞者となった。全従業員に向けたウォルト・ディズニーの言葉から72年後のことである。

文=すずきたけし