魔法少女になれる……と思ったら、わたし、悪の組織の女幹部ですか!? サディスティックマジカルコメディ『魔法少女にあこがれて』

マンガ

公開日:2021/6/25

魔法少女にあこがれて
『魔法少女にあこがれて』(小野中彰大/竹書房)

 なんにもない平和な日なら、ちょっとドジでも正義感は人一倍、いつでも元気いっぱいの、どこにでもいる女の子。けれど、ひとたび世界がピンチに陥れば、秘密のアイテムをサッと取り出し呪文を唱え、キュートなコスチュームに身を包んで悪と戦う“魔法少女”──ピュアな乙女心をお持ちの方なら、誰もが一度は憧れる存在だろう。もちろん、『魔法少女にあこがれて』(小野中彰大/竹書房)の主人公・柊うてなもそのひとり、というか、そこそこ強火の魔法少女ファンだ。

魔法少女にあこがれて

 心やさしく内気な中学生・うてなの住む街には、魔法少女がいる。世界征服を目論む悪の組織と戦う正義のヒロイン・魔法少女トレスマジア──可愛くてカッコいい、素敵な変身ヒロイン3人組だ。彼女たちに憧れ、魔法少女グッズを集めるほど熱心なファンのうてなの前に、ある日突然、宙に浮いたぬいぐるみみたいな物体が現れ、話しかけてくる。「してみるかい? 変身」。そう、ソレは、「平凡な少女の前に突如現れ変身する力を与えてくれるマスコット的なヤツ」だったのだ。

「キミには選ばれし力がある」。マスコット的なそれ・ヴェナリータに告げられたうてなは喜んだ。ええっ、そんな、わたしが魔法少女になるなんて。恥じらいつつもノリノリで華麗なる変身を遂げると……あれ? 仕上がりが、思ってたのとなんか違う。微妙に露出度が高い上にダークカラー基調、コウモリの羽にツノがあしらわれた、魔法少女というよりも悪魔系の衣装なのだ。

advertisement
魔法少女にあこがれて

 うろたえるうてなに、ヴェナリータは言う。「当然だろう? 君の選ばれし力っていうのは悪の組織の女幹部の力だよ?」。そっかあ、悪の組織かあ……「それならヤメます」とうてなが辞退しようとすると、ヴェナリータは「残念だな」とSNSのアカウント(フォロワー約20万人)をチラつかせる。「じゃあさっきの変身バンク一連はSNSで拡散させてもらうよ」。さすが悪の組織、やることが陰湿だ。かくしてうてなは、悪の組織の新米女幹部として、大好きな魔法少女たちと戦うハメになるのだが……。

 本作の最新第4巻までを読んで思うのは、悪の組織の構成員も魔法少女も、やっぱり“人”なんだなあということだ。心やさしいうてなだって、魔法少女たちにヒドいことをしているうちに新たなカイカンを覚えてしまうし、清く正しい魔法少女たちといえど、イケナイ感覚に惹かれてしまうことはある。よくよく考えてみたならば、悪の組織が一致団結しているはずもない。内部抗争だって起きるだろう。彼女たちのなんともいえない人間くささには、善悪問わず親近感さえ覚えるほどだ。

「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門ノミネート作品でもある本作。読み終えたときには、魔法少女みたいにカッコいい憧れの人や、悪の組織ばりにきらいな人にも、意外な一面があるんじゃないかと思えるようになっている……かもしれない。

文=三田ゆき

あわせて読みたい