10年前に消えた少女の謎を巡り、友情が試されるゲームが始まる…! 最後まで油断ならない青春群像ミステリー『君が消えた夏、僕らは共犯者になった』

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/2

君が消えた夏、僕らは共犯者になった
『君が消えた夏、僕らは共犯者になった』(蒼木ゆう/KADOKAWA)

 平凡な日々を送る大学生の透に届いた、一通の招待状。それは新ゲームのテストプレイに参加してほしいという内容だった。差出人は、ゲームクリエイターとして大成した幼なじみの空。10年前の夏合宿に参加した仲間たちにも同じ手紙が届けられ、彼らは久々に再会する。〈思い出を大切にした者が勝つ〉という条件のもと、2泊3日のゲームが始まるが――。

「ファンタジー部門」と「現代部門」の2つの枠を設け、幅広い世代の女性が楽しめるエンターテインメント小説を募るビーズログ小説大賞。応募総数558本の中から「現代部門」特別賞に輝いた蒼木ゆうさんの『君が消えた夏、僕らは共犯者になった』は、本格カードゲーム小説にして切ない青春群像劇だ。

 主人公・透は快活で自信にあふれ、リーダー的ポジションの男の子だった。しかし12歳の時、夏合宿で起きたある事件がトラウマとなり、以降、人と関わることを避けて生きてきた。旧友・空からの呼びかけに悩みつつも、ずっと後悔していたことと向き合うためにゲームへの参加を決意する。

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 開催場所は、10年前に夏合宿が行われた人里離れた森の中。集まったのは、透を含めて6名の参加者、プラス主催者の空だ。空はにこやかな笑みを浮かべて多額の賞金をちらつかせ、プレイヤーたちをそれとなく焚きつける。子どもの頃は内気で繊細な少年だった空だが、透同様にこの森で起きた事件を境にして、彼の人生は捻じれてしまった。

 その事件とは、合宿中に一人の少女が行方不明となり、未だ遺体が見つかっていないことだった。消えた少女、朱音に空はひそかに恋していた。そして朱音の失踪には、透をはじめとする参加者全員がなんらかの形で関わっていたのだった。

 朱音と最も仲のよかった親友の瑠璃。明るく我がままな性格の麗と、そんな麗とフレネミー関係にある蓮実。お調子者で屈託のない達也と、その従者的存在である一樹。

 誰もが朱音の不在を意識しながら、寝た子を起こすのを恐れるかのように朱音についてふれようとせず、ゲームのクリアを目指す。そんな彼らに空は巧妙に揺さぶりをかけてくる。それぞれが持つ劣等意識や弱点、欲望をさりげなく刺激し、互いが互いを憎むよう、蹴落とすよう仕向ける。カードゲームでの勝負のみならず、仲間たちの友情それ自体にひびを入れ、一人、また一人と脱落させていく。

 物語は現在と過去が交錯する形で進む。

 透と空、そして瑠璃を中心に進行してゆくゲームの行方と、錯綜する人間関係が描かれる現在パート。対する過去パートでは、10年前の夏合宿の様子が綴られる。現在パートが緊迫感をはらんでいけばいくほど、過去パートで楽しそうに交流し、仲を深める透たちの姿が痛いほど胸に迫る。

 朱音の失踪に自責の念を覚える透。朱音の存在を忘却しようとするかつての友人たちを、許せない空。そして朱音について重大な秘密を抱えている瑠璃。三者三様の葛藤が錯綜するのと並行し、朱音の身にはたして何が起きたのか、その真相が明らかになってゆく展開が巧みな筆致で綴られて、読む手が止まらなくなる。

 天才的な頭脳を持ちながらも、心は12歳の時のまま。そんな危うさのある空に、透はこんな言葉をかける。

「取り戻せなくても、やり直すことはできるんだ」

 失った過去は取り戻せない。それでも、やり直すことはできる。同様に生き直すことも――。それはまるで空に語るのと同時に、自分自身に言い聞かせているようだ。

 彼らが一騎打ちするクライマックスのカードバトルのシーンには、闘いを通しての分かりあいと赦しあい、そして死者への懺悔が切々とにじんでくる。そして全てが終わった後、瑠璃によって思いがけない真実が明かされるという結末にまた、唸らされる。

 読み終えた後で改めて本書の表紙を見てみてほしい。物語にひそんでいた様々な謎へのヒントがすでに提示されていて、ここできっと、あなたは再度驚くだろう。

文=皆川ちか

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