あの時、違う選択をしていたら人生バラ色に? 過去に戻ったクリエイターの卵たちの青春ストーリー

マンガ

公開日:2021/8/7

ぼくたちのリメイク
『ぼくたちのリメイク』(閃凡人:漫画、えれっと:キャラクター原案、木緒なち:原作/講談社)

 昔のルート分岐であっちを選択していたら違う人生だったかも……。まるでゲームのように考え、悔やむことは誰にでもあるだろう。

 本稿で紹介するのは2021年夏からアニメ版が放映されて話題の『ぼくたちのリメイク』のコミック版(閃凡人:漫画、えれっと:キャラクター原案、木緒なち:原作/講談社)。同名の原作小説(KADOKAWA刊)は「このライトノベルがすごい!」に2年連続TOP10入りした人気作品である。

 アラサーのゲームディレクターが、記憶はそのまま10年前に戻り、ルートを選び直して“クリエイター人生を作り直そうとする”物語だ。

 アニメ版を見て本作を知った人は、ぜひこのコミック版、そしてもちろん原作小説も読んでほしい。なお本稿は、アニメ版視聴のみの方にはネタバレになる部分があるので、あらかじめご理解いただきたい。

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ゲームディレクターが大学入学時に戻り、クリエイター人生のリメイクを開始

 2016年、28歳の橋場恭也(はしば きょうや)は、ディレクターとして勤めていた“エロゲ”制作会社が倒産し、実家に帰ることに。

 恭也はふと目に入ったニュースで、自分と同い年で大中芸術大学(以下、大芸)出身のトップクリエイターたち、通称“プラチナ世代”の活躍を知る。そのとき彼らへの憧れと自分への失意が入り交じった複雑な感情を抱く。

 実は恭也も10年前、大芸に合格していたのだ。そのときはランクが高い大学に受かったため大芸に行かなかったが、もしも“プラチナ世代”と机を並べていたら……。ぼんやりと絶望感に打ちひしがれて寝て起きると、そこは2006年の実家だった。彼が大芸に入学を決めた“別ルート”の過去で、28歳時の記憶をもったまま18歳になっていた。

 大学そばのシェアハウスに入居した恭也。そこには同じ映像学科の一回生たちが集っていた。既に絵師の才能を開花させつつあった志野亜貴(しのあき)、演技と歌の潜在能力を秘めた小暮奈々子(こぐれななこ)、作品作りでは主に脚本を担当することになる鹿苑寺貫之(ろくおんじつらゆき)。4人は共に課題制作に取り組み絆を深めていく。

 同居するヒロインたちから「好かれフラグ」が立つところや、恋愛シチュエーションもあり、この部分はコミック版での描き方と演出が非常にすばらしく、ニヤニヤ展開がアニメより加速しているように感じられ、青春もの同居ラブコメとしても秀逸である。

 さて何の因果か選び直すことができた10年前の別ルート。ここから過去を幸せにリメイクして努力を重ねれば、“プラチナ世代”のように自分も輝けるかも――。恭也は単純にそう思っていた。

 しかし過去の変化で未来が変わるのは、彼だけではなかったのだ。

 恭也はある重大な事件を経てそれに気付き、“自分のためだけ”に過去を作り直していたことを大きく後悔する。リメイクは誰の、何のためなのか。ストーリーは、恭也の決意と覚悟により、大きく動いていく。

主人公は作品に関わるすべての人間がクリエイターだと理解する

 曲がりなりにもゲームディレクター“だった”恭也は、大芸でクリエイティブを学ぶ。たとえばシェアハウスの4人で映像作品の課題を制作したとき、彼は「製作」を担当。助教授で実習を担当する加納美早紀(かのうみゆき)からは「尻ぬぐいでもある」と言われた役割だ。

 結果、起きたトラブルに28歳までの経験を活かして対処し、みごとに作品をまとめ上げ、シェアハウスチームは一回生のなかで3位という高評価を獲得。彼は3人と周囲から一目おかれるようになる。

 恭也は加納から課題制作中に「作品に関わるすべての人間、製作も立派なクリエイター」だと言われていた。彼にその発想はなかった。「何もできない奴が創作とは一番遠いこの役をやる。エロゲだって絵も描けずシナリオも書けない人間が、ディレクターやプロデューサー」だと思っていたからだ。

 製作の経験は、後に恭也を突き動かし、リメイクの方向性を決め、能力を開花させる原動力となる。本作はチームで表現を追求する難しさやノウハウ、創作への関わり方も描いた、すべてのクリエイターへの讃歌でもある。

 ちなみに原作小説は2021年7月時点で継続している。物語は一体どんなエンディングを迎えるのか。これからの展開が楽しみである。

文=古林恭

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