18カ国で“フリーハグ”を行ってきた著者が、世界に伝えたい思いとは

社会

公開日:2021/8/6

フリーハグ!
『フリーハグ!』(桑原功一/日本図書センター)

 個人的に、ハグはするのもされるのも恥ずかしい。日本ではあまり馴染みのない文化だからかもしれないが、ハグの瞬間に周りの目が気になってしまうのだ。結局、恥ずかしさが勝って握手やお辞儀を選んでしまいがちだ。同じように思う人は、きっと少なくないだろう。

 しかし、『フリーハグ!』(桑原功一/日本図書センター)の著者・桑原功一さんは違う。彼は2011年から10年間、まったく知らない人とハグをする活動“フリーハグ”を日本や世界で続けてきた。その様子を映した動画は、心温まると話題を呼び、YouTubeで2,000万回を超える再生数を記録している。

 そして2021年5月、彼の活動の軌跡を綴ったエッセイが発売された。本書には、彼のフリーハグへの思いや記録だけではなく、人の心がつながることの素晴らしさも綴られている。

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 おこがましいのも承知の上で、あえて彼を一言で表すなら“勇気ある人”だろう。理由は、彼が2019年8月におこなった韓国・ソウル光化門広場でのフリーハグにある。当時そこでは、日本政府の対韓政策に抗議するデモが行われていた。ほとんどの日本人は、そんな場所に行こうとは思わないだろう。しかし彼はそこで1人、目隠しをして両手を広げ、ハグしてくれる人を待ち続けたという。ちなみに彼は、フリーハグの目的をいつも明確にしている。そして自身の思いをメッセージボードに書き、横に置くのだ。光化門広場でフリーハグをおこなったときのボードには、こんなことを書いたという。

“私は日本人です。いま、NOアベ集会が行われています。日本ではこれが「反日デモ」と報じられ、韓国人は日本人のことが嫌いなのだと思ってしまう人もいます。しかし、私はそうは思いません。日本には、日韓友好を願う多くの市民がいます。韓国にも、日韓友好を願う多くの方がいると思っています。私はみなさんを信じています。みなさんも、私を信じてくれますか?もしそうなら、ハグを”

 もちろん、彼に恐怖がなかったわけではない。目隠しで何も見えない状態、かつ周りにはデモを起こしている人しかいないのだ。桑原さんが攻撃の対象になる可能性も低くはなかった。作中には、そのときの思いや葛藤も鮮明に綴られている。

 正直、なぜここまで自分の身を危険に晒してまで、フリーハグをしようと思ったのだろうか。本書を読了するまでずっと疑問だった。実は彼、フリーハグを実践する上で、さまざまな所で予期しないトラブルに見舞われているのだ。もし僕が彼だったら、途中でやめたくなってしまうだろう。せめて目隠しだけでも取ればいいのに……。ただ彼は10年間、フリーハグを続けてきた。これは事実であり、桑原功一の心に、とてつもなく強い意志があったから成し得たことだと言える。

 彼をここまで突き動かした出来事、エピソードとはいったい何だったのだろうか? そもそもなぜ目隠しをしているのか? 詳細はぜひ、本書を手にして確かめていただきたい。

 時代はコロナ禍。残念なことに、目隠しフリーハグで世界中に思いを伝えるのは難しくなった。しかし彼は前向きだ。現在は動画クリエイターとして、言葉で自分の思いを世界に伝えている。コロナ禍によって露呈した人種差別についても、彼は「人同士の心は通いあえるはず」というメッセージとともに平和を強く願っている。

 きっと、コロナウイルスが一定の収束を見せて海外渡航が可能になったとき、誰よりも先に海外へ飛び出してハグをしにいくのは桑原さんだろう。「冒険」「挑戦」「伝えること」に誇りを持ち、人とは違う人生のレールを自ら敷いて歩んでいく彼を、僕はこれからもずっと見守っていきたい。

文=トヤカン

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