ヒロインがボソッとつぶやくデレ台詞、実は全部バレバレです…! ハルヒ並みの初版部数で話題の『ロシデレ』のおもしろさとは?

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/7

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん
『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN:著、ももこ:イラスト/KADOKAWA)

「ん、なんだって?」

 ヒロインがボソッとつぶやくデレ台詞は、なぜだかライトノベルの主人公には聞こえない。ラブコメ作品お約束の表現だ。ご丁寧にデレ台詞だけフォントが小さくなっていることもある。ツンデレヒロインのいじらしい乙女心は、神の視点から物語を俯瞰する読者だけが楽しめる特権なのだ。もし聞かれてしまえば、主人公に好意がバレる。好意がバレたことにヒロインが気づけば、物語は一気に終わりに向けて転がり出してしまう。

 そんな“鈍感系主人公”の進化系が、ラブコメブーム真っ盛りのライトノベル界を席巻している。『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN:著、ももこ:イラスト/KADOKAWA)、通称『ロシデレ』だ。1巻の発売当初からラノベファンの間で話題になり、7月に発売された第2巻の初版部数は、なんとあの「涼宮ハルヒ」シリーズの第2巻と同数だという。

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 ヒロインのアーリャは、ロシアの血を引く銀髪の美少女。その容姿ゆえに学校中から注目を集めるが、人気者の先輩からの誘いを無下に断り、なぜか隣の席の冴えない男・久世を気にかける。久世は、よく教科書を忘れるやる気のなさで、アーリャは「バカじゃないの?」とツンツンあたる。だが、時々ボソッとロシア語でつぶやく。「かわいい」「私にかまってよ」「昨日はかっこよかったのに」――。アーリャは久世には伝わらないと思っているが、実は彼は祖父の影響でロシア語がわかる。彼女の“デレ”は久世にダダ漏れなのだ。

 久世もはじめから素直に「ロシア語がわかる」と言えばよかったが、今更カミングアウトするわけにもいかない。恥ずかしさに耐えながら、“鈍感系主人公”のふりをしているのだ。ヒロインの心の内は読者のみぞ知るものだったが、『ロシデレ』は主人公と一緒にドキドキできる。「ん、なんだって?」と聞き返す鈍感系主人公には、「なんで聞いてないんだよ!」とツッコミたくなるものだが、久世とは尊いマンガをこっそり共有しているような親しみと共感がある。

 この「ヒロインがロシア語でデレる→主人公だけわかるのでニヤニヤ」という仕組みの発明だけでもシチュエーションラブコメとしては100点だが、『ロシデレ』の魅力はそれだけにとどまらない。芸能人並みの容姿をもつアーリャが、どうしてやる気のない久世を気にかけるのか。「うらやましい!」と思いながらも頭の片隅をよぎる疑問は、ふたりの中学時代のエピソードで明らかになる。アーリャと久世が抱いてきた苦悩は、どこかで私たちも感じたことがあるもので、知ればふたりがぐっと身近になるはずだ。

『ロシデレ』は、キャッチーなシチュエーションラブコメで読者を惹きつけながら、青春の苦しみも同時に描くことで、キャラクターに多層的な魅力を与えていく。第1巻のラストで久世はある“決意”を固め、そこからふたりの物語は大きく進んでいく。この関係、一度ハマれば抜けられない。

文=中川凌 (@ryo_nakagawa_7

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