不倫夫にカマをかけたらどうなった?浮気発覚から始まる夫婦再生の物語

マンガ

更新日:2021/9/16

カマかけたらクロでした
『カマかけたらクロでした』(うえみあゆみ/メディアファクトリー)

 誰かのヘビーな体験を、漫画というライトなメディアを通じて追体験できるのがコミックエッセイの魅力だ。パートナーの浮気というシビアなケースも、コミックエッセイで多く取り上げられるテーマのひとつ。この『カマかけたらクロでした』(うえみあゆみ/メディアファクトリー)も夫の不倫を知る妻の物語だが、その後の夫婦の再生までを描いているのが、本書の大きな見どころだ。

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 テレビのADとして働く夫と娘と暮らす主人公は、第二子である男の子を妊娠中。ある日妻は、仕事の忙しさを理由になかなか家に帰らず、不仲が続いていた夫の不倫の形跡を見つける。別れさせ屋と探偵に依頼してすべて知っているとカマをかけると、夫は浮気を認める。浮気相手からの嫌がらせや別居、息子の出産を経て、妻は夫との離婚調停に臨む。

カマかけたらクロでした P28

 仕事と偽って浮気相手と会っていたこともさることながら、自分に都合のいい嘘をつき、妻が妊娠後期になっても、詰め寄られるのを怖がって家によりつかない夫。責任感がなく、逃げてばかりの態度は目も当てられないほど卑怯で、離婚へと突き進む妻には共感しかない。妻は日々、浮気相手からの攻撃におびえ、助産院では、体がこわばっていて出産準備に入っていないと言われる。夫の話を聞いた助産師と一緒に泣いたエピソードは切ない。

 離婚調停は、やり直したいと言う夫の希望は退けられ、妻の希望がほぼ通る形で終わる。しかし、29歳の妻は、人生を左右する決断を前に、怒りの感情に駆られて白黒つけることをためらい、離婚を「今、決めない」という答えを出す。そして、子どもと夫との面会をきっかけに夫婦の普通の会話が始まり、娘の受験勉強のサポートを頼んだことから、夫は妻の実家で寝泊まりするようになる。

カマかけたらクロでした P70

 離婚調停から2年半という時間を経て、いつの間にか家族4人は一緒に暮らしている。夫婦は別れるのか、別れないのかという答えを出すことなく、グレーのまま時間を共に過ごしていく。不倫や嘘などの裏切りから夫婦関係にヒビが入り、そのまま壊れてしまうケースはよく聞く。しかし、その良し悪しはさておき、入ったヒビはそのままに、なんとなく続いていく関係も確かにある。そして、グレーなつながりが生むドラマにこそ人間の面白さがあると、笑いと涙に満ちたこのコミックエッセイは教えてくれる。

カマかけたらクロでした P86

カマかけたらクロでした P102

 主人公は結論を出さないと決めたとき、「時間を味方にする」という言葉を使っている。人生にはタイミングが大事な決断もあるが、少なくとも人間関係では、時間を味方にして決定を先送りにする勇気も必要なのではないだろうか。とはいえ、著者がこの10年後を描いた『マタしてもクロでした』でも、夫は浮気を繰り返している。夫の人間性へより深く切り込み、さらには妻の思いに、成長した子どもたちの父親への思いも絡み合う。グレーな結論のその先を描く続編も必見だ。

文=川辺美希

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