40歳“地味”女・田中さんが、23歳派遣OLも36歳大和撫子幻想男も変える! 『セクシー田中さん』の魅力

マンガ

更新日:2021/9/26

セクシー田中さん
『セクシー田中さん』(芦原妃名子/小学館)

「すんげースカート短い女が歩いてて キレイな脚してて すれ違いざま思わず顔見たらババアなの ドン引き」。――マンガ『セクシー田中さん』(芦原妃名子/小学館)で、23歳の主人公・朱里が合コンで出会った男・小西から言われたセリフである。

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セクシー田中さん 1巻p.66
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

 そのあと「朱里ちゃんはまだまだ全っ然大丈夫じゃん!」と続くのだけど、彼のように、それがちっとも誉め言葉ではないということに気づかない男性は多いのだろうな、と思う。どんなに若くて美しい女性でも、永遠に時を止めることはできない。誰かを「ババア」とけなす男はいずれ、年老いた自分から心離れするだろう、ということを朱里はよく知っている。でも、だからといって真正面からキレるほど強くないのは、どんなに就活を頑張っても派遣OLにしかなれない自分が、安定した生活を手に入れるためには、“かわいい女の子”でいるしかないと知っているからだ。大好きな人から都合のいい女扱いされても、嫌われたくないからかわいい笑顔を浮かべるしかできない自分が、朱里は嫌いでたまらない。そんなとき出会ったのが、同じ会社に勤める経理の田中さんである。

セクシー田中さん 2巻 p.11
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

セクシー田中さん 2巻p.12
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

 地味で40歳にしては老けこんでいて、暗くて猫背。仕事はできるからAIとあだ名される彼女は、女として“枠外”だと若い社員から陰で言われていたのに、急に姿勢もスタイルもよくなったことに気づいた朱里。ペルシャ料理の店でベリーダンスを踊る田中さんを偶然見かけ、会社で見せるのとはちがう凛とした姿に魅了され、押しかけ女房ならぬ押しかけ友達をはじめる。

セクシー田中さん 1巻p.56
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

セクシー田中さん 1巻p.57
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

 田中さんは、いわゆる美人ではないし、言ってみれば「オバサン」である。本人もそれは、自覚している。けれど彼女は、ただ長いだけと思っていた手足を生かすベリーダンスに出会い、うまれて初めて“好きな人”と一緒に過ごす幸せを得た。自分にできることをひとつひとつ、積み重ねて居場所をつくりあげている田中さんの姿を、朱里は美しくてカッコイイと憧れる。田中さんのようになりたいと強く願ったことで、朱里は小さくても着実に自分を変えるための一歩を踏み出していく。

 田中さんが変えるのは朱里だけではない。朱里が合コンで出会った笙野。36歳で都銀勤め、理想の大和撫子を求めて婚活中の彼は、偏屈で偏見のかたまりだ。朱里のことはチャラチャラと男に媚びる馬鹿な女と思いこむし、ベリーダンスをしている田中さんには「あんたいくつだよ なんつーかっこしてんすか 痛々しい」と暴言を吐く。だが、自分がいかに失礼だったか気づいた彼は、実直な田中さんに嫌われたくない一心で、変わろうと努力しはじめる。

セクシー田中さん 3巻 p.89
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

セクシー田中さん 3巻 p.90
(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

 年齢なんて、関係ない。人は、本当に大事にしたいと思える人が、それが恋でも友情でもできたならば、その人に恥じない自分であろうと変わることができるし、何よりそんな自分をきのうよりも少し好きになれたら、人生はとても豊かなものになる。……と、本作を読んでいると思えるのだけど。

 現実はそんなにきれいなものばかりではない。年甲斐もないとか、キャラにあわないとか、みっともないとか。そんな嘲笑もまた同じ世界に存在し、鋭利な刃となって田中さんに容赦なく向けられる。どうでもいいはずの他人が押しつけてくる価値基準にふりまわされながら、どうすれば私たちは胸を張って生きていけるのか――。“大人”になりきれない彼らの葛藤がとびかう群像劇から、目が離せない。

文=立花もも

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