警察官は体の動きで嘘を見抜く!? 人間の心を掴む達人・刑事から学ぶ『刑事メンタル』

ビジネス

更新日:2021/10/6

刑事メンタル 絶体絶命のピンチでちびってしまう人でも動じないハートが手に入る!
『刑事メンタル 絶体絶命のピンチでちびってしまう人でも動じないハートが手に入る! 』(森透匡/ダイヤモンド社)

 人前だと緊張して実力が発揮できなかったり、失敗を恐れて不安になってしまったり、終わったことをクヨクヨと悩んだり……精神的に弱い自分に嫌気がさしている人も多いのではないか。そんな自分を変えようとメンタルに関するノウハウ本を読んだものの、実践のハードルが高く挫折してしまった、というケースもあるだろう。そんな人は、元刑事が自らの経験から学んだメンタルメソッドを伝える『刑事メンタル 絶体絶命のピンチでちびってしまう人でも動じないハートが手に入る! 』(森透匡/ダイヤモンド社)を読んでほしい。

 著者の森透匡は、警察官を27年経験し、刑事として20年勤務した経験の持ち主。殺人や傷害、反社会勢力による組織犯罪、また横領などの知能犯罪の事件に携わってきた。刑事には、人命が関わる緊迫感ある現場や、張り込みなどの地道な作業、そして家宅捜索などの任務がある。そして、その仕事で対峙するのは犯罪者など、一般人は接する機会が少ない特殊な人物も含む。本書では、そんな厳しい仕事の中で学んだメンタルやコミュニケーションに関するノウハウを、実際のエピソードを交えながら、刑事ドラマさながらの熱い言葉で伝えている。


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 たとえば第1章では、刑事として乗り越えた数々のピンチを紹介しながら「極限に追い込まれたときの平常心の保ち方」を紹介している。拳銃で撃たれる恐怖に対して「撃たれたら撃たれたで仕方がない。ただ頭だけは外してもらおう」と覚悟を決めたというエピソードから、大ピンチには「これならまだまし」という条件を考えることで、平常心を保てるとアドバイス。拳銃を所持した容疑者のいる現場に向かう前に防弾チョッキを触って安心感を手にした経験から、不安を感じたときのために握りしめられるお守りなどを身につけておくことを提案する。

 刑事あるあるネタを活かしたアドバイスも面白い。警察官は雨の日も両手を空けておくために傘を差さない、組織犯罪担当の刑事はパンチパーマやごつい指輪などいかつい風貌をするといったネタに、「安心感を得たいなら両手がフリーになるリュックに」「自分に箔をつけたければ見た目を変えよう」というアドバイスが添えられている。助言がストレートすぎて笑えるが、最速で事件解決を目指す警察の合理的な慣例が元ネタなら、効果が期待できそうだ。そのほか「実は取調室の出前は容疑者の自腹」という事実や、刑事が教える嘘の見抜き方など、刑事ドラマでは描かれないトリビアも読んでいて楽しい。小難しいメンタル本には挫折してしまったという人も、「これなら自分もできるかも」というノウハウを発見できるのではないだろうか。

 本書のメインテーマは「刑事のメンタル」ではあるが、数多く紹介されている刑事のコミュニケーション術も興味深い。ネゴシエーターと呼ばれる交渉人は、容疑者のネガティブな心理をポジティブに変換する声掛けのプロであること。捜査では、体の動きや視線による「非言語コミュニケーション」による直感が重要であること。取り調べでは、相手に共感することで懐に入り、本音を引き出すこと。口を閉ざす容疑者や、事件に関心のない聞き込み先から情報を得るため、刑事がどんなコミュニケーション術を体得しているのか理解できる。刑事には、強靭な肉体や精神力や頭脳だけでなく、人間にじっくりと向き合い、心を開くしなやかさが必要なのだ。そんな刑事のコミュニケーション術は、あらゆる仕事のさまざまなシーンでも活用できそうだ。

 新型コロナウィルスの脅威だけでなく、その感染拡大によって、仕事や私生活でもさまざまな困難が生じている時代。短期間に、かつてないほど予期せぬ事態がたびたび起こって、参っている人も多いかもしれない。想定外の出来事に戸惑い、ストレスを感じてしまうという人は、修羅場を乗り越えてきた刑事の強いメンタルと、苦境をあらゆる方法で切り抜ける柔軟な姿勢に学んでみてはいかがだろうか。

文=川辺美希

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