サッカー観戦中に「サッカーに集中しろ!」と子供を叱る父親は正しい? マンガで学ぶスポーツビジネスのあるべき姿

ビジネス

公開日:2021/10/22

マンガでよくわかる!スポーツビジネス入門

著:
イラスト:
出版社:
東洋館出版社
発売日:
マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門
『マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門』(中村武彦:著、上西淳二:漫画/東洋館出版社)

 この9月末、IT企業大手のミクシィが、J1リーグのサッカークラブ・FC東京の経営権取得の方針を固めたことがニュースになった。

 そのFC東京に限らず、最近のJリーグでは、2018年にはサイバーエージェントが町田ゼルビアの経営権を取得。2019年にはメルカリが鹿島アントラーズの経営権を取得するなど、IT企業の参入が相次いでいる。

 ライブドアや楽天の球界参入の動きで、野球界が揺れた2000年代前半とは異なり、今やイキの良い新進企業がスポーツビジネスに取り組むのはごく普通の時代になりつつあるわけだ。

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 大学などの教育機関でもビジネスの視点からスポーツを学ぶ学生は増加しており、スポーツビジネスのノウハウを伝える書籍も増えてきている。

 その中でも、気軽に手に取れる入門書の決定版ともいえるのが、この夏に発売された『マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門』(中村武彦:著、上西淳二:漫画/東洋館出版社)。

 タイトルの通りマンガを通してスポーツビジネスを知れる書籍で、物語の舞台となるのはサッカーのJ3の仮想のクラブ。主人公が自身のクラブチームをスポーツビジネスの力で盛りたて、クラブワールドカップへと導いていく……という内容で、ストーリーを楽しんで追いながらスポーツビジネスを初歩から学ぶことができる。

 そして本書はマンガ仕立てではあるものの、決して内容が軽く・薄いわけではない。

 というのも、このマンガのストーリーを手掛けているのは、日本におけるスポーツビジネスの第一人者で、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)やスペインのラ・リーガ、FC バルセロナの国際部などで経験を積んだ中村武彦氏。

 各章の合間には2~5ページ程度のコンパクトな解説も掲載されており、マンガとその解説を読むだけでスポーツビジネスの要点を学ぶことができるのだ。

スタジアムで「サッカー観戦に集中しろ!」と子供にキレる父親は正しい?

 本書はマンガのストーリー仕立てだからこそ、スポーツビジネスのあり方について「なるほど!」と納得できることも多い。

 特に筆者が感心したのは、第2章の「チケット代って何代?」の物語だ。

 この章では、まずスタジアムに観戦に訪れたファミリーにフォーカスが当たる。

マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門 p.35

マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門 p.36

 父親は熱心なサポーターらしく、声を出して応援中。一方で娘は退屈そうで、「ママー、おなか減ったぁ」と訴える。

 しかし、「このスタジアムはフードは高いし種類も少ないし、並ばなきゃいけないからダメよ」と伝える母親。子供はゴネはじめ、父親は「うるさい! サッカーに集中しなさい!」とキレてしまい、子供は「つまんないよぉぉ!」と泣きはじめる……。

 スタジアムでは実際に見られる光景だろう。

 なお、サッカー観戦に来たんだからサッカーを観なさい……という父親の言い分はそれっぽく聞こえるが、本書の物語は「果たしてそれは合っているのだろうか?」と読者に疑問を投げかける方向へと進む。

ライバルはテーマパークや商業施設、映画館

 物語では、食事とお土産、グッズがたくさんもらえて、地下でちゃんこも食べられる相撲観戦の仕組みが描かれる。そしてジャズバーで「ちょっと、静かにしてくれる? オレは音楽に浸りたいんだよ」とキレる男性と、彼への違和感。そこに重なる先ほどの父親の姿……。

マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門 p.42

マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門 p.43

 そして本章の解説では、スタジアムに来る観客の目的はさまざまであることが書かれ、スポーツクラブが競うべきライバルにはテーマパーク、商業施設、映画館、レストランといったコンテンツが含まれるとも述べられている。

 スポーツビジネスの視点で考えれば、チケット代を支払った観客には「楽しかった!」「また来たい!」と感じられる体験を売ることが求められるし、その体験は「サッカーだけ」に限られたものではないというわけだ。

 これはスポーツをビジネス視点で捉えたことのない人には、目からウロコの視点といえるだろう。

 なお、このようにスポーツ観戦をエンターテインメントビジネスの視点から捉える考え方は、物語の父親のような一部の熱心なスポーツファンからは嫌厭されがちだが、世の中のスポーツは本書の物語のように「カジュアルなファンも楽しませること」を重視する方向へと進んでいる。

 そして本記事の冒頭に記載したような有名企業の経営参画についても、ネガティブに捉える声は今もあるが、本書は第8章の物語でその話題にも触れながら、「クラブにとっても経営に参画する企業にとってもメリットがある」と書いている。

 近年のJリーグでは、楽天が経営参画したヴィッセル神戸のイニエスタ選手獲得を「金満クラブ」と揶揄する声もあるが、ヴィッセル神戸は強豪の仲間入りを果たしつつあり、Jリーグ全体もイニエスタ効果で盛り上がりを見せるなど、いいサイクルが進んでいるように見える。

 本書を読めば、サッカーをはじめとした日本のスポーツ界が現在どのような方向に進んでいるのかが理解できるだろう。もちろんスポーツ界で仕事をしたい人にも大いに参考になる内容のはずだ。

文=古澤誠一郎

■マンガでよくわかる! スポーツビジネス入門
https://bit.ly/2Z4nQTR

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