産休・育休をとるとき、なんで謝るんだろう? 「別にダメじゃないのに、ダメっぽいことになっている」ことにモヤモヤするあなたに

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/2

ダメじゃないんじゃないんじゃない
『ダメじゃないんじゃないんじゃない』(はらだ有彩/KADOKAWA)

 先日、フリーランスとして働きはじめたきっかけを尋ねられ、フリーライターになったときのことを思い出した。私がこの仕事をするようになったのは、おかげさまで副業だったライターの仕事が順調で、会社員として働いている時間がなくなったからである。ちなみに、結婚の話をしていた当時の恋人には、「会社辞めてフリーライターになる」と告げたら、即、振られた。10年前、まだ「会社に所属してなきゃダメなんじゃない?」という考え方が、うっすら残っていたころの話だ。

 働き方や結婚などに対する世の中の考えは、10年前とはずいぶん変わった。ところが時代は、まだまだ過渡期なのだろう。居心地の悪さを感じて、ふと「これってほんとに『ダメ』なこと?」と立ち止まってしまうこともある。同じようにモヤモヤを抱える人にぜひ手に取ってほしいのが、昔話に登場する女子たちの理不尽を語る『日本のヤバい女の子』で話題を集めた著者・はらだ有彩さんによる、思考実験エッセイ『ダメじゃないんじゃないんじゃない』(KADOKAWA)だ。

『ダメじゃないんじゃないんじゃない』のコンセプトは「深刻なことをふざけながら考えてみる」である。
「ふざける」というのは、馬鹿にしたり、矮小化したりするという意味ではない。(中略)行き詰まったときにぶらぶら散歩をすると妙案が浮かぶように、寄り道しながら考えるほど、むしろ近道にならないだろうか? という実験である。

 本書では、現代社会において「別にダメじゃないのに、なんかダメっぽいことになっている」事柄について、ひとつひとつ「それって、本当にダメ?」と検討を重ねている。

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 たとえば、世の中では「『迷惑』だからダメ」とされている、「産休・育休で仕事に『穴を開ける』」こと。著者いわく、「産前産後・育児中という状況に置かれていなくても、人は仕事を休む」。それを確認した上で、仕事を休むときの定型句「すみません」がどのような怒りに向けられたものなのかを細分化するうちに、仕事を休む人に「すみません」と言わしめる「組織」の姿が見えてくる。だが、ドラッカーらによると、「組織」とは、「構成メンバーが欠けたり変わったりするたびに形を変え、その時々の最大の力が発揮できるためのシステム」だ。「組織」の仕事に「穴が開く」という事態は、そもそもありえないことなのである。そんなふうに考えていくと──産休・育休で仕事に「穴を開ける」のは、ダメじゃないんじゃない?

 無論、はらださんが出す結論に共感できなくても問題ない。むしろ共感できないという人ほど、彼女の「思考実験」は楽しめるかもしれない。全力で反論するつもりでいても、ユーモアたっぷりの書きぶりにぷっと笑わされてしまったり、ふざけていなければできないほど綿密な検討に、うっかり「へえ、ほんとだ」なんて納得させられてしまったりするからだ。はらださんのエッセイの好評ぶりは、本書が、文庫『日本のヤバい女の子 覚醒編』『日本のヤバい女の子 抵抗編』(KADOKAWA)とともに3カ月連続で刊行されることからもよくわかる。

 現代社会を生きるにあたり、モヤモヤを抱えている人はもちろん、「そうは言ってもダメなものはダメだろう」「最近流行りの考え方がわからない」という人も、目からうろこの価値あるエッセイ。読了後は、それが「本当にダメ」かどうか、あなた自身の考えが持てるようになっているだろう。

文=三田ゆき

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