孤高の吸血鬼と、女子大生兼監視官のバディ誕生――眠らない街・新宿を舞台に繰り広げられる夜闇のミステリー
更新日:2021/11/29

ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』をはじめ、萩尾望都の『ポーの一族』、アン・ライスの“ヴァンパイア・クロニクルズ”、ステファニー・メイヤーの『トワイライト』……と吸血鬼を題材にした創作物は数多い。永遠に死ぬことのない不死者でありながら、血を吸わないと生きていけず、日の光を浴びると消滅する異形の者たち。限りなく死に隣接し、それゆえに悲しい存在である吸血鬼は、私たち人間を惹きつけてやまない。そんな、鉄板の人気ジャンルである吸血鬼界に新たな力作が加わった。
作者は、圧倒的な筆力とリーダビリティによる“戦記文学”、『そして、遺骸が嘶く ―死者たちの手紙―』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)で第26回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞した酒場御行氏。鮮烈なデビューから待ちわびること1年9カ月、本作『吸血鬼は目を閉じ、十字を切った』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は待望の第2作目となる。
舞台は、眠らない街・新宿。主人公は、表紙イラストの美麗な風貌からしてすでに常人とは異なる雰囲気を放つ吸血鬼、シキョウだ。
吸血鬼の保護と監視を行う組織「INAPO(国際夜行性動物保護機関)」に所属する彼は、自らも吸血鬼でありながら“同胞”たちを調べる任務を負っている。そんなシキョウに、人間の相棒がつくところから物語の幕が上がる。彼とコンビを組むのは、弱冠19歳の女子大生ヒバリだ。彼女には5年前に蒸発した父親を捜すという目的があった。
シキョウとヒバリが臨む最初の任務は、マンションから転落死した17歳の少女の死の真相を探るというもの。少女の首には咬み痕があり、体内の血液の5分の1がなくなっていた……(第一章)。
続く第二章では、吸血鬼の関与が疑われる連続失踪事件を2人は追う。そして第三章と第四章では、ヒバリの消えた父の秘密と、5年前に起きた凄惨な連続殺人事件、そしてそれを模倣するかのような新たな猟奇事件の謎解きが並行して展開される。
本作にはさまざまな吸血鬼が登場する。寡黙で内省的、端麗なルックスによらず大食漢で甘いものが大好きなシキョウ。その“兄”にあたる、外見年齢は少年ながら、二百歳のシキョウよりはるかに年上で老成したサビ。クールで一見怖そうだけど、心を許した者には優しいスオウ。
彼らに共通するものは、孤独だ。
気が遠くなるほどの長い時間を生きる吸血鬼は、愛する者にはどうしても先立たれる運命にある。したがって必然的に孤独となり、愛に懐疑的となる。シキョウも然り。なにかとヒバリに冷たい態度をとって、親しくならないよう、情が芽生えないよう距離を置こうとする。
そんな彼にヒバリは真正面からぶつかり、衝突を繰り返しながら関係を築いていく。
物語の中盤でシキョウは、彼が最も恐れていた衝動に呑み込まれてしまう。それは誰かの首を咬み、生き血をすすること。
この咬傷(こうしょう)場面には、残酷さと官能性が絶妙に混ざりあっていて、吸血鬼ものの核であるエロスとタナトスが匂うように表れている。
抗うことのできない自らの吸血鬼としての本能に絶望するシキョウと、そんな彼へ揺らがない信頼感を示すヒバリ。彼らの距離は近づき、自分たちの過去にけりをつけるべく、事件解決に全力を尽くす。
2人の抱える葛藤や苦しみ、怒りが浄化されていくまでの道のりは、実にヘヴィだ。それだけに胸が掴まれる。
文=皆川ちか
作品詳細ページ
『吸血鬼は目を閉じ、十字を切った』
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