ド迫力バトル×料理×恋、3つの魅力が凝縮した大活劇漫画『神食の料理人』

マンガ

公開日:2021/12/3

神食の料理人
『神食の料理人』(鈴木小波/集英社)

 激アツなグルメ×バトルマンガをご紹介! ある国に神食(かじき)という化け物がいた。それは凶暴で……美味かった!

 そんな神食を、料理人を目指す少年が“ある日”から切って料理して食べまくる物語。それが『神食の料理人』(鈴木小波/集英社)である。

 作者の鈴木小波氏と言えば、実写ドラマ化もされた女子大生が自炊するマンガ『ホクサイと飯さえあれば』(講談社)が人気だ。また『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(KADOKAWA)などのバトルマンガも得意で、本作はまさに鈴木氏の“いいとこどり”な作品なのだ。

 とにかく料理は美味しそうで、それを食べる表情もまた素晴らしい。そして胸がすくようなド迫力のアクションシーン……まさにグルメとバトルが本作の魅力である。


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目指すは“神食”の料理人! 少年は神の宿りし包丁で戦いに挑む

 昔の日本に似たその世界には、神食(かじき)という怪物が日常的に存在していた。空に魚型の神食が群れをなして飛んでおり、さまざまな生物や野菜の神食も現れる。どれもこれも食べればとびきり美味く、そして不思議な力を宿しているとされていた。

 主人公は見習い料理人の八十八十八(やそや とおや)。彼は実家の食事処・八十八庵でやや厳しすぎる修業を続けていた。キツくても彼は大好きな料理のために前向きだった。

 そんな彼の自慢のお弁当は、幼なじみの少女“イザ”こと九九一十六夜(くくい いざよい)になんだかんだと食べられてしまう。ただいつも弁当を「美味しい」と褒めてくれるイザに、十八は悪い気はしていない。

“ある日”そんな平穏な日々が終わる。十八はいつものようにイザに絡まれながら、錆びた包丁を研がされていた。そのなかに“しゃべる包丁”があった。「逃げたほうがいいぞ」その包丁、緋緋色金(ヒヒイロカネ)がそういった刹那、ふたりはサメ型の神食に襲われる。

 イザは彼をかばって、あろうことか右手を食いちぎられてしまう。何とかイザを連れて家の調理場に逃げ込んだ十八は絶望していた。そこでまた緋緋色金が語りかける。

「そのままでは女は出血で死ぬ。だからあのサメ神食を食わせろ。神食の肉には傷をふさいで癒せる力がある。俺を使って斬り倒し、料理しろ」と。

 ヒヒイロカネの正体は、長い年月を経たモノや道具に神や精霊が宿った九十九神だった。鋼の九十九神であるその包丁に、十八が自らの血を与えると、包丁が刀に変化する。

 そして彼もまた髪色が変わり超人的な身体能力を発揮、一瞬でサメ神食を斬り倒す。この神食とのバトルシーンは毎回ド迫力。圧巻の見開きシーンはぜひ紙の単行本か、電子書籍でもタブレットやPCなどでそのまま見てもらいたい。

 こうして倒したサメ神食を「酢味噌和え」にしてイザに食べさせる。傷はみるみるうちに治り、一命はとりとめたものの、腕はそのままに……。

 聞けば神食のなかには不治の病や傷を治してしまうものがあるそうだ。十八は、どこかにいるその神食を探してイザに食べさせると決意し、普通の料理人ではなく、神食の料理人を目指す。

気持ちを持っていかれる美味しそうな料理と恋の始まり

 イザの腕を治すため、かたっぱしから神食に戦いを挑み、これを倒していく十八。前述のサメ神食を「兜割り」にして「酢味噌和え」に。神食金目を「兜割り」にして「茶漬け」に。神食マタコは「天ぷら」にしてうどんにトッピング。化け物も倒せばただの食材、それは普通に美味しい料理になる。これがどれも、めちゃめちゃ美味そうなのだ。

 凝りすぎていない料理というのがポイントで、モノトーンにもかかわらず味も匂いも想像できてしまう。物語の本筋とは直接関係ないが、ここも本作の大きな魅力である。

 そしてもうひとつの魅力は、ほのぼのとしたラブコメシーンだ。

 腕を失ったイザが「十八に怪我がなくてよかった」と泣きながら笑う。

 いつもの幼なじみのはずなのに、彼女にドキドキするようになる十八。少年はまだ、その想いの名を知らない。

 十八が「僕が神食の料理人として、美味しい料理でその腕を治すぞイザ!!」と宣言する。

 イザは、弟のような幼なじみと恥ずかしくて目を合わせられなくなる。ただ彼女はその気持ちを知っているのか。

 ここは読む前に気にしておいてもらえるとうれしい(読めば気付くと思うが)。アツいバトルシーンと、美味そうな料理からのこの展開で、気持ちが持っていかれた。鈴木先生最高です……。

 物語はこれから神食の料理人の組織「新饌組」(しんせんぐみ)の登場、そしてまさかのヒロインの覚醒など、どんどん盛り上がっていく。

 第1巻の表紙は、美しい赤の神食金目が目印だ。ぜひ手に取ってほしい。

文=古林恭

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