眠るたびに記憶がリセットされる「忘却探偵」シリーズ、新たな舞台はN.Y.! シリーズ最新作『掟上今日子の忍法帖』

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/9

メフィストリーダーズクラブ/MRC
『メフィスト』

 眠るたびに記憶がリセットされる体質のため、どんな事件でもほぼ1日で解決に導く「最速」の名探偵・掟上今日子。お金とお洒落と推理小説が好きな彼女の推理は、摩天楼でも冴え渡る!?

 西尾維新氏による忘却探偵シリーズ最新作『掟上今日子の忍法帖』の舞台は、アメリカ最大の都市・ニューヨーク。ある朝、セントラルパークで変死体が発見された。被害者は40代の男性、公園近くのビルで働く証券マンだ。発見された時点で、被害者のシャツは自身の血で真っ赤に染まり、ひと目で他殺とわかる状態だったという。心臓部に刃物が刺さり、大量に出血していたのだ。彼の胸に刺さった刃物は、かなり特殊な形状だった──それは、日本が抱える暗殺部隊『SHINOBI』、その構成員が用いる投擲刃物の『SHURIKEN』だったというのである。

 ニューヨーク市警殺人課に所属する若き警部補・キャステイズが以上のことを報告すると、彼女の上司・リバルディ警部は呟いた。「アメリカ国民が海外の暗殺部隊が使用する凶器で殺害されたとなると、国際問題になりかねないな……」。大袈裟な杞憂ではない。キャステイズ警部補が、わざわざ特徴的な凶器を使用した点に犯人の主張があるのではないかと考えていたところ、聞き込みを担当している同僚からの着信があった。セントラルパーク内で、不審な日本人女性の姿が確認されているという。目撃証言どおりの白髪に眼鏡、ファッショナブルな若いアジア人女性の所在はすぐに判明した──老朽化したマンションの一室で、にこやかにふたりを迎え入れた彼女は名乗った。「初めまして。探偵の掟上今日子です」と。

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 アリバイどころか、1日前の記憶もない『忘却探偵』に事情聴取を行うキャステイズ警部補らに、今日子は犯人しか知り得ないはずの事実を「推理」だと言って披露する。あえて疑いのかかる言葉を発した彼女の真意は? そして、これ以上忘却探偵にかかわるなとでも言いたげにニューヨーク市警を訪れた白スーツのFBI捜査官と今日子の接点とは? キャステイズ警部補らは、白スーツのFBI捜査官に乗せられるように、セントラルパークで起きた殺人事件の解決を今日子に依頼することになるのだが……。

 シリーズ1作目の『掟上今日子の備忘録』(講談社)から、冤罪体質の青年、警備員、刑事などさまざまな相棒とともに事件を解決してきた今日子だが、今回のバディは、彼女も憧れるニューヨーク市警。シリーズ前作『掟上今日子の鑑札票』(講談社)から引き続き、今日子の過去に大きく関わりを持つ人物も登場し、物語はますます広がりと加速度を増している。また本作は、謎を愛する本好きのための会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ」の会員限定小説誌『メフィスト』にて連載されている作品だ。「メフィストリーダーズクラブ」は、『メフィスト』の送付だけでなく、オンラインイベントの開催やオリジナルグッズの販売など、読者に新たな読書体験を提供する読書クラブである。謎と秘密の香りのする「会員制クラブ」も、謎多きヒロイン・今日子の新たな活躍の場にぴったりだといえよう。

 美しき忘却探偵が繰り広げるタイムリミット・ミステリー、N.Y.編。実写化にとどまらず広がり続ける「忘却探偵」ワールドに追いつきたければ、いつだって、思い立った今が「最速」だ。

文=三田ゆき

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