「俺たちは5人だったのに今は6人いる」不気味な館に監禁されたワケあり男たちの、謎が謎を呼ぶ脱出ホラーミステリ

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/20

やまのめの六人
『やまのめの六人』(原浩/KADOKAWA)

 これほどまでにミステリとホラーを上手く融合させ、読者を戦慄させる作者はそういないだろう。昨年、原浩氏作の『火喰鳥を、喰う』(KADOKAWA)を読んだ時、心からそう思い、感動した。

 同作は、ともに4半世紀以上の歴史を持つ「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」を統合し、創設された新人文学賞「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」に輝いた原氏のデビュー作。1羽の鳥に翻弄させられる人間の姿から目が離せず、ラスト1ページまでとことん楽しめる長編小説だった。

 原氏が生み出す恐怖の世界は、怪異や人怖、ミステリ要素が複雑に絡み合っていて面白い。それは新刊『やまのめの六人』(KADOKAWA)にも言えること。本作は、謎多き館に足を踏み入れたワケあり男たちが恐怖のドン底に落とされる、密室ホラーミステリだ。

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いつのまにか6人になってる…ワケあり男たちが遭遇した密室ホラーミステリ

 互いの素性を知らない男たちは、嵐の夜、“ある仕事”を終え、1台の乗用車で峠道を走っていた。しかし、峠の頂に差し掛かった頃、土砂崩れに巻き込まれ、車は横転。仲間のひとりは不運にも、命を落としてしまった。

 運よく生還した男たちは、麓に通じる道が崩れ、携帯も繋がらない状況に困惑。そんな時、付近一帯の土地を所有している金崎兄弟に偶然出くわし、彼らの屋敷で雨をしのぐこととなった。

 母と3人で暮らしているという金崎兄弟は人当たりがよさそうに見え、男たちは安堵する。だが、屋敷に足を踏み入れた直後、金崎兄弟の態度は豹変。特に兄・一郎の変わりようは恐ろしく、嗜虐的な本性をあらわにして暴力をふるい、男たちを拘束。ついには仲間のひとりが殺され、男たちが持っていたアタッシュケースも奪われてしまった。

 そんな状況を、金崎兄弟の母親はまるで楽しんでいるかのように笑みを浮かべながら傍観。その姿を見て、男たちの恐怖心は増大していった。

 だが、なんとか隙をつき、一郎に致命的な傷を負わせ、拘束を解くことに成功。弟と母親は逃亡し、男たちはアタッシュケースを取り戻すことができた。

 しかし、ホッとしたのもつかの間。なぜなら、アタッシュケースの中身がすり替えられていたからだ。ケースはダイヤルロックで施錠されており、強引に開けられた形跡もない。

 これはどうやら、金崎一家の仕業ではなさそうだ…。そう察した男たちは互いを犯人ではないかと疑い、本物の中身を探し始める。

 すると、その過程で奇妙な事実に気づく。乗っていた車の座席数に対し、今この場所にいる人の数が合わないのだ。たしかに俺たちは5人だった。なのに、なぜ今は6人もいるのか…。

 事故の影響からか、車に乗っていた時のことを鮮明に思い出せない男たちは増えたひとりが誰で、いつから混じっていたのかと考え始める。

 そんな時、仲間のうちのひとりが人に化けて紛れ込む“やまのめ”という物の怪の逸話を紹介。それを機に、男たちは「増えたひとりは果たして人間なのだろうか…」という恐ろしい疑問を抱きながら、互いの正体を探り合うようになっていく。

 果たして、仲間の中に“怪異”は混じっているのか。そして、アタッシュケースの中身をすり替えた裏切り者とは…? 2つの謎にドキドキさせられる本作は真相が明らかになった後に、さらなる驚きが得られ、読みごたえばっちりな1冊。

 ただ怖いだけでなく、普段見て見ぬフリをしている自分の醜さや弱さ、汚さと向き合うきっかけも授けてくれる作品なので、ぜひ2度戦慄し、原ワールドに浸ってみてほしい。

文=古川諭香

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