手土産にしたいデザインからなつかしのお菓子缶まで。今こそ愛したい、お菓子缶の物語

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/21

素晴らしきお菓子缶の世界
『素晴らしきお菓子缶の世界』(中田ぷう/光文社)

 子どもの頃に買ってもらったお菓子缶や、実家で物入れとして使われていたお菓子缶、知人が手土産に持ってきたおしゃれなお菓子缶など、お菓子缶に抱くイメージは人それぞれだろう。しかしそれは、お菓子缶の魅力や歴史の奥深さに理由があるのかもしれない。そんなお菓子缶の楽しみ方を教えてくれるのが、この『素晴らしきお菓子缶の世界』(中田ぷう/光文社)という書籍だ。

素晴らしきお菓子缶の世界 P9

 編集者やフードジャーナリストとして活躍する著者の中田ぷう氏は、3歳のときに祖父に買ってもらったキャンディの缶をきっかけにお菓子缶通に。そんな著者が、あまり資料が残っていないという日本の缶の歴史や、世界各国の魅力的なお菓子缶の紹介、缶のトリビアを伝えるコラムなど、さまざまな角度からお菓子缶の魅力に迫っている。海外の優雅なお菓子缶から、お菓子好きなら見たことのある定番のお菓子缶、日本全国のレトロな名物お菓子缶まで、よくぞここまで!という圧巻のラインナップだ。

素晴らしきお菓子缶の世界 P22

 格別に素敵なお菓子缶を紹介する冒頭のパートでは、お菓子缶を愛する著者が選び抜いた10のお菓子缶を紹介。忘年会や年末の帰省に持参したくなる、おしゃれなデザインが目白押しだ。手土産に飽き足らず自分用にもしっかり買って、お菓子を食べた後にも愛用したくなる。ヨックモックや、鳩サブレーでおなじみの豊島屋といった名店のお菓子缶の歴史を追うパートも、誰もが知っている名店だからこそ読み応えたっぷり。ヨックモックのチョコレートシガールなどのクッキーに使われた有名な「木蓮缶」を見て、昔いろいろなところでペンなどの長いものを入れて再利用されていたことを思い出した。缶のデザインのシンボルマークに込められた創業者の思いや、クリスマス缶デザインの変遷など、かわいさだけでなく、お菓子缶が持つ物語を伝える情報の量と質に圧倒される。

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素晴らしきお菓子缶の世界 P34

 イギリスやフランス、イタリアなど、世界各国のお菓子缶を紹介するパートも興味深い。缶のラインナップを見渡すと、格式高いイギリス、優雅なフランス、元気なイタリアと、国のカラーがお菓子缶に表れていることが見て取れる。著者は、缶は、食品を湿気から守る機能性やデザインを鮮やかに表現する発色性を持ち、ブランドの思いを表現できる一番身近なアートだと言う。その言葉が伝えるとおり、お菓子缶は世界においても、その時代や文化を示す魅力的な媒体であったのだと理解できる。

素晴らしきお菓子缶の世界 P60

素晴らしきお菓子缶の世界 P71

 美しいデザインに息をのんだかと思えば、勤め先や実家でよく見た定番のお菓子缶にほっと安心する。個人的には、実家の押し入れにずっとあったお菓子缶が急に目に飛び込んできて、タイムスリップしたような不思議な感覚になった。ちなみにそれは、「日光甚五郎煎餅」の缶。親は小学校教師でよく日光に修学旅行に行っていたから、そのときに買ってきたのかなと、30年越しにあの缶に思いを馳せた。なつかしのお菓子缶は、都道府県別に日本のお菓子缶を紹介するパートでの出没率が高いと思われるので、チェックしてみてほしい。「かわいいお菓子缶を取り寄せたい!」という未来への願いと、缶の歴史への考察、さらには自分自身の思い出も交錯する、貴重な体験を与えてくれる1冊だ。

 今は、ネットで取り寄せられるお菓子缶も多い。旅行をしたり、カフェでスイーツを楽しんだりすることを控えていても、お菓子缶なら家で、中身を食べ終わった後も長く楽しめる。おうち時間の心を満たしたい今こそ、お菓子缶の世界に浸ってみてはいかがだろうか。

文=川辺美希

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