辛い過去にとらわれず生きる勇気をくれるコミックエッセイ『あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで』

マンガ

更新日:2021/12/23

あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで
『あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで』(もつお/KADOKAWA)

 この記事を書いている私は、小学生から高校生までいじめられていた経験を持つ。どうすれば当時のことを忘れられるのか、何年経ってもわからないままでいた。

 そんな私が本書『あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで』(もつお/KADOKAWA)を読んだとき、大きな衝撃が走った。本作の主人公・ユイが、私が学校で人間関係に悩んでいたことを体現していたからだ。

 現在、ユイは会社員だ。気を遣いすぎる性格で、孤立することを極度に恐れている。高校時代にいじめにあっていたのがその理由だ。高校に入学してから、なかなか同じクラスの友達ができなかったユイは、ある日、隣の席のミレイに声をかけられ、クラスの中心的なグループに入る。

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 中学時代は地味な存在だったユイ。憧れのグループの一員になれたことで最初は喜んでいたが、ある日グループの中の一人が仲間外れにされる。理由は「ミレイの気に食わないことをしたから」だ。

あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで

 そのグループはミレイが中心になっていて、メンバーたちは自分が仲間外れの標的にならないよう、常に彼女の顔色をうかがって毎日を過ごしていた。ユイも同じように頑張るが、ある日ミレイの機嫌を損ねてしまい、恐れていたことが現実となる。

あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで

 10代は人格を形成する大切な時期だ。優しく穏やかな性格だったユイが、どんどん自分を嫌いになっていく過程に目を向けてほしい。序盤で描かれる大人になったユイの自信のなさと、彼女が高校時代に経験したことがつながってくる。

 グループから疎外することで、加害者が被害者を追いつめる。加害者にとっては、いじめている自覚がない場合も多いから厄介だ。そしていじめの怖さは、いじめを受けているときの苦しさに加えて、加害者から離れた後も、負った傷は消えることなく心を蝕み、人格や人生に大きく影響を及ぼすことだ。

あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで

あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで

 いじめを受けた人の中には、「苦しみを乗り越えたおかげで強くなれた」と言う人もいるかもしれない。だがユイのように、何年経とうが当時の記憶から逃れられず、癒されない傷を持ち続けている人の存在を忘れてはならない。

 学校は子どもにとって社会生活のすべてだ。そこで「最悪の事態」を経験した場合、学校から出ても、組織や会社の中で同じことが起きないように必死で自分を守ろうとするのは当然の行動だ。しかしそれは、弱い人間という印象を周りに与えてしまったり、極度の社会不安につながったりもするのである。

あの頃世界のすべてだった学校と自分への呪いにさよならするまで

 本作では、ユイの心情が緻密に描かれている。同じような経験をした人はもちろん、見て見ぬふりをしてきたという人、いじめに直面したことがなかったという人にとっても、きっと心に刺さる部分はあるはずで、多くの人がユイに感情移入するのではないだろうか。

 そしてその痛みを自分ごとのように感じながら最後までページをめくると、特に私のように苦しみを持ち続けてきた人にとって、過去にとらわれることなく生きていくためのヒントと勇気を与えてくれるだろう。ユイのこれからを考えることは、きっと大きな救いとなるはずである。

文=若林理央

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