新婚ならではの「すれ違い」に目が離せない! 初々しい夫婦を描いたラブコメ『僕の奥さんはちょっと怖い』

マンガ

公開日:2021/12/25

僕の奥さんはちょっと怖い
『僕の奥さんはちょっと怖い』(栗田あぐり/講談社)

 SNSで話題のマンガ、読むと結婚したくなる新婚ラブコメが『僕の奥さんはちょっと怖い』(栗田あぐり/講談社)だ。

 いろいろな意味で不器用な新婚夫婦の物語は、9万以上のいいねを獲得したTwitterのマンガがベース。その後Webサイト「コミックDAYS」で装いも新たに連載となった。サイトのオリジナル(作品)ランキングで常に上位に位置している本作の魅力を紹介したい。

ツンデレが過ぎる完璧妻(?)はキリっとしていてちょっと怖い

 清水幸助(しみずこうすけ)は、公私ともにドジで天然なファッション雑誌の若手編集者。彼は編集部のエースだった先輩・白浜夏菜(しらはまなつな)にダメ元で告白。するとあっさり承諾され、その数カ月後には結婚式を挙げていた。

 本作はふたりの“新婚の日常”を描いた物語だ。いきなりだが幸助は自信を失っていた。なぜなら夏菜は、仕事も同僚への接し方も完璧で、今は主婦としても申し分ないからだ。結婚するとあっさり仕事を辞めた夏菜は、主婦業もバリバリこなしている。

 そんな彼女を見て幸助は「なんでこんな人が僕なんかと結婚してくれたんだろう」と落ち込む。さらに夏菜は美人だがクールで、ちょっと怖いのだ。だから幸助は夏菜を「先輩」としか呼べないでいた(妻もまた「清水くん」と呼んでいるのだが)。

 しかしある日、たまたま早退した幸助が見たものは、主婦業に必死な夏菜の姿。完璧に見えた彼女の料理、洗濯、掃除はめちゃめちゃ時間をかけて行われていたものだった。彼女は基本的に不得意だった家事をインターネットで調べて、完璧な奥さんになろうと努力していたのである。幸助はそんな、ツンデレが過ぎる彼女を愛しく思う。

僕の奥さんはちょっと怖い
怖いくらい素直じゃない
そこがとても可愛いです

 不器用なふたりの結婚生活は始まったばかりである。

advertisement

幸せ過ぎる!「両思い」後、結婚してもラブコメは続く

 本作はラブコメとして成立している。どういうことかと言うと、筆者はラブコメの定義を「すれ違い」だと思っている。

 ポピュラーなのは一方通行な「片思い」。そして「両片思い」は、お互い好きだと分かっているのに踏み出せず、読者が「もどかしい!早く付き合え!」と叫んでしまうやつだ。

『僕の奥さんはちょっと怖い』は結婚しているから「両思い」である。本来たいていのラブコメは、気持ちが通じ合って「すれ違い」が解消され、付き合う、もしくは結婚がゴールなので、めでたしめでたしのはずだ。しかし幸助と夏菜の場合の「すれ違い」は、結婚したてのコミュニケーション不足から生まれるものなのだ。

 幸助はその天然ぶりから、何かしでかすたびに「奥さんに愛想つかされる……」と怯える。夏菜はとにかく家事スキルを高めて、「夫に喜んでほしい」と考えている。このズレが絶妙なラブコメ具合なのだ。

 普段なら「両思いならもう付き合え」と思う私たち読者は「いくらモメても結婚しているしな……」と、なんとも言いようのないもどかしさを感じる。何かあっても最後にはイチャイチャ×ラブラブ状態になるからだ。

 それが分かっていても、この新婚夫婦のラブコメから目が離せないのは「安心感」だと思う。多くのラブコメにある、意中の相手と結ばれる? 結ばれない? というものが本作にはない。

 ふたりはもう結婚していて、妻は夫をめちゃめちゃ愛している。本作は安心して幸せなふたりを楽しむラブコメなのだ。読めばきっと「こういうの、いいな……」と思うはずである。

 夏菜視点のエピソードもあり、クールビューティな彼女がどれだけ夫を好きなのかも、丁寧に描かれるので注目してほしい。また2巻でふたりは新婚旅行で温泉へ。まだ初々しく、それでいてラブラブ感が加速していく夫婦にあてられると、ついつい「結婚」したくなるかもしれない。

 最後に……幸助と夏菜の間にできた息子の物語『外面男子の清水くん』(祥伝社)も発売中なので、ふたりの“安心ラブコメ”の先も、併せて読んでみてはいかがだろうか。

文=古林恭

あわせて読みたい