懐かしの名作のシーンとセリフがよみがえる! もう一度読みたい70年代少女漫画のブックガイド!

マンガ

公開日:2021/12/28

懐かしい! 70年代少女漫画
『懐かしい! 70年代少女漫画』(オフィスJ.B/双葉社)

 近年、少女漫画をテーマにした書籍やムックの刊行が活況をみせている。実作者による回顧本や、あるテーマのもとで編まれた本の数々は、少女漫画がこれまでに築きあげてきた豊かな世界や、今も色褪せない作品のさまざまな魅力を伝えてくれる。

 なかでもオフィスJ.Bによるガイドブックは、特色のある切り口や目配りの行き届いたセレクトで、少女漫画好きを唸らせてきた。『私たちが震えた 少女ホラー漫画』では、ホラー漫画の名作が多数取り上げられ、単行本未収録短編も3作収録。『私たちがトキめいた 美少年漫画』では、現在人気のBLの源流ともいえる美少年漫画が多角的に紹介された。

 そんなオフィスJ.Bによる『懐かしい! 70年代少女漫画』(双葉社)は、タイトルのとおり、少女漫画の黄金期である1970年代を掘り下げたムックだ。美麗なイラストを多数収録したカラーイラストギャラリーや、「おとめちっく」「バレエ」「SF」「世界史」「日本史」など多彩なテーマによる特集、充実したインタビューや対談記事、そして名作少女漫画作家&作品ガイドを通じて、70年代の名作たちが紹介されている。

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 巻頭を飾るのは貴重なカラーイラストたち。作家のテクニックが注ぎ込まれた美しいイラストが、読者を懐かしの少女漫画の世界へと誘う。アイビーファッションや、読者が感情移入できる等身大の恋愛描写で人気を博した「おとめちっく」漫画では、陸奥A子氏、田渕由美子氏、太刀掛秀子氏の3名をピックアップ。ジャンルの立役者である陸奥氏、大人っぽい雰囲気が魅力の田渕氏、ドラマチックなストーリーを打ち出した太刀掛氏と、各作家の作風が見比べられるのも面白い。

 坂田靖子氏のインタビューは、デビューから47年を迎えた現役漫画家による、70年代の振り返り。“マザコン少年”を主人公にした異色のデビュー作「エルドンの夜」や、当時大ファンだったタレントを登場させた「D班レポート」の話など、作品にまつわるエピソードや作家の創作のルーツが語られている。商業誌の仕事のみならず、坂田氏が参加していた同人誌「ラヴリ」の活動にも言及があり、これも貴重な時代の証言といえるだろう。

 さまざまな切り口のなかで、個人的に興味深かったのが、もりたじゅん作品を「演出」という観点から読み解いた解説だ。「あしの原」と『青い季節』という力作ヒューマンドラマを取り上げながら、繊細な心理を描写する演出の妙を解き明かしている。

 作家&作品ガイドは必ずしも代表作に限定しないセレクトが秀逸で、70年代少女漫画のバラエティに富んだ世界が味わえる。百合漫画として今こそ再評価したい篠有紀子氏『アルトの声の少女』(声優の緒方恵美が本作を原作にしたドラマCD『月の夜にアイまShow !』を出しており、こちらもおすすめだ)や、大人びた作風で男女4人の愛とすれ違いを描く志摩ようこ氏の『ロリアンの青い空』(名木田恵子:原作)など、忘れがたい佳作もピックアップされている。

 作品の初出など細かいデータも記載されるなど、ガイドブックとしての作りも手堅い。この時代の少女漫画を読んでいた読者にとっては懐かしく、作品を知らない世代にとっては絶好の手引となる、力作ガイドだ。

文=嵯峨景子

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