LINEの既読スルーに予測モデルで立ち向かう! データサイエンスを駆使して、日常の些細な出来事を「まじめに」分析したらどうなる?

ビジネス

公開日:2022/1/16

データサイエンスの無駄遣い 日常の些細な出来事を真面目に分析する
『データサイエンスの無駄遣い 日常の些細な出来事を真面目に分析する』(篠田裕之/翔泳社)

 その道のプロや専門家が、全力で趣味に走り遊んでみたというようなことをネットに投稿すると、閲覧者からは「才能の無駄遣い」とか「先生、なにやってんスか」などと賞賛のコメントが付く。本稿で取り上げる『データサイエンスの無駄遣い 日常の些細な出来事を真面目に分析する』(篠田裕之/翔泳社)も、広告会社に勤務しデータ分析を行なっている著者が、「孤独に対してデータサイエンスで立ち向かう」ことをテーマに、バカバカしくも本格的なデータ検証をしている一冊だ。

 ただ、本書の対象読者は「データやテクノロジー、デバイスを用いたテック系の読み物に興味のある方」と「データ分析、アプリケーション開発に興味ある方」を想定していることが明記されている。それでも私が紹介したいのは、著者の軽妙な語り口が面白いうえ、知人に送ったLINEは既読スルーのままで、返信が来る確率がスマホゲームのガチャに当たる確率より低く、飲み会に行けば注文以外の発言が皆無だったという孤独っぷりに共感を覚えたから。そしてなによりも、検証の過程やオチとなる結果にひとしきり笑ったその後で、これは世の中の役に立つんじゃないか、と思えたのだ。

LINEで既読スルーされる原因を解析!

 著者は、べつに孤独を愛している訳ではない。大きな壁の一つとなっているのが、「飲みに誘ってもレスポンスがないのだから飲みに行けない」という既読スルー。本書の検証では、LINEに加えてFacebookのチャット履歴も用いて「自分が送ったメッセージに対して3日以内に返信がなかったもの」をプログラムで機械処理しているため、未読スルーと既読スルーを厳密に区別していない。それでもデータとして見えてくるモノがあり、曜日時間帯ごとの既読スルー率を調べてみると、午前7~9時台はスルー率が高かったという。この時間帯は、相手も忙しくてすぐに返信できないのだろうというのは推測しやすいが、深夜の2時台も既読スルー率が高く、シンプルに自分が迷惑な人間なのではと気づいた著者は「いつでもコミュニケーションを取ることができる時代だからこそ、いつ連絡するべきかに敏感な人間でありたい」と反省の弁を述べている。

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読者が感情移入しないとページが進まない漫画を作る!

 漫画は夢中になって読む時代から、通勤通学のさいや休憩時間などの隙間時間に読むモノへとなった。それだけ普及したという証左でもあるものの、今やスマホで読む時代。著者は、「死んだ魚のような目で流れ作業をこなすように」読んでいる人を目にするようになったと感じたという。そこで、漫画のキャラクターの表情・心情と、読者の表情・心拍が一致しない限り次のコマに進めない「漫画のキャラクターと読者の感情を強制的に同期させる装置」を作成する。なんでそこまでの情熱を、と思ったら、著者は若い頃に少年誌に漫画を投稿していたそうで、なんと今回の検証のために31ページの作品を描き下ろしたという。本書で全編を読めないのが残念。

 実験してみて大変だったのは、表情を作るよりも「心拍数の上げ下げに体力を消耗する」ことだったそう。それが何故かといえば、心拍数を上げるためにスクワットをするという、システムをハックするようなことをしていたから。なんだか本末転倒なことになっているが、「表情や心拍数を一致させながらストーリーを読んでいくと後追いで感情がついてくるということはあり得るように感じた」とのことで、周囲の目を気にして感情をあらわにする機会が少ない人にとっては、心のストレッチに使える可能性を秘めている。

在宅ワークで寂しい人は、部屋に“バーチャル職場”を作ってみよう!!

 新型コロナウイルス禍によって在宅ワークが増え、作業自体は効率が上がった一方、孤独感からか心労を抱えてしまう人もいる模様。著者は、職場をイメージしたフリー素材の写真と、何故か持っていた同僚の3Dモデルデータを組み合わせて部屋の壁に投影するプロジェクションマッピングをやってみた。その効果を検証するために、これまた何故か所持している簡易脳波計で自身の脳波を測定してみたところ、プロジェクションあり(人物0)の方がわずかながらリラックスできていることの他に、動きのある人物をあわせて投影すると脳が活性化されていたそうだ。応用すれば、その日によって部屋を模様替えしたり、好きな漫画などの世界を背景にして愉しんだりということもできそうだし、在宅介護や長期入院の患者さんへのケアなど、かなり実用的なのではないか。

 本書では各検証の後に「解説・今後の課題」が載っており、本来の対象読者ならば自分自身でも取り組むことが可能で、著者はそれらを読んでみたいというのを執筆動機の一つとして挙げている。残念なことに、私は知識も技術も持ち合わせていない。しかしながら、専門家の全力を賞賛するSNSなどのコメントには「振り込めない詐欺」というのもあるのに対して、本書は購入することができるのがうれしいところ。そして本書に触発されて、くだらなくも面白い真面目な本が、さらに世に出てくれることを期待したい。

文=清水銀嶺

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