シリーズ化熱望! 今よりずっと生きづらかった明治時代に、華族令嬢が書生とともに事件の謎を追うミステリー『華に影』

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/6

華に影 令嬢は帝都に謎を追う (双葉文庫)

著:
出版社:
双葉社
発売日:
華に影 令嬢は帝都に謎を追う
『華に影 令嬢は帝都に謎を追う』(永井紗耶子/双葉文庫)

 華やかな世界に当たるスポットライトの光が強ければ強いほど、その裏側に生まれる影は暗く深いものとなる。小説『華に影 令嬢は帝都に謎を追う』(永井紗耶子/双葉文庫)の舞台は、今よりもずっと明確に階級社会が敷かれていた明治時代の帝都東京。爵位を持つ者たちが集う煌びやかな夜会で起きた殺人と思わしき事件の真相を、男爵家の令嬢が書生とともに追うミステリーである。

 物語の始まりは、明治18年。鹿鳴館で行われた夜会である。話題の中心は、子爵に叙されたばかりの八苑重嗣の妹・琴子。誰もが目を奪われる麗しき彼女は、維新の立役者のひとりであり、政府の重鎮である黒塚伯爵のもとへ嫁ぐことが決まっていたが、伯爵は40代半ばで、琴子は16歳。誰の目にも明らかな身売りであった。人生を諦め、家族のために身を挺することを決めていた彼女だったけれど――夜会での出来事をきっかけに、はじめて伯爵への嫌悪を自覚してしまう。涙を流す妹に、けれど兄は言い捨てる。「女は物を知らぬ方がいい」。知ってしまえば、未来への希望と期待が芽生え、同時に現実への反抗心と絶望が襲いくるから。……そういう時代の話なのだと、のっけから物語にはやりきれなさが漂うのだが、物語は琴子を中心には進まない。時は過ぎ、明治39年。千武男爵家のはねっかえり令嬢・斗輝子が、黒塚伯爵家での夜会に出席するところから、再び動き出す。

 当主である祖父も後継ぎの兄も差し置いて、名代として出席することを命じられた斗輝子の連れは、書生になったばかりの影森怜司という青年のみ。もとより祖父と折り合いの悪かった黒塚伯爵は、当然のことながら侮辱されたと気分を害し、斗輝子もまた居心地の悪い思いを味わう。そんなさなか、伯爵が浪人に襲われ、かつ何者かに毒殺されてしまうのである。

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 千武家の当主は、伯爵が死ぬことを知っていて、嫌疑がかけられぬようわざと孫娘をよこしたのではないか。むしろ裏で糸を引いていたのは千武家なのではないか。表向きは病死で処理されたものの、そんな不名誉な疑いをひそやかにかけられ、斗輝子の兄は怜司に真相を探るように命じる。現場に居合わせた斗輝子が指をくわえて見ているはずもなく、好奇心と正義感をおさえきれない彼女は、怜司を相棒に率先して事件の謎を追うのだけれど。

 真犯人の正体は、伯爵家の周辺を探ればおのずと知れる。けれど問題は、なぜ八苑子爵だけでなく、請われて嫁いだはずの美しき琴子までが、黒塚伯爵に蔑ろにされていたのか、だ。そして、琴子と繋がりのある帯留めを、なぜ怜司が母親の形見として大事に抱いているのか。そもそも、どうして斗輝子の祖父は、ただの書生に過ぎない怜司を優遇するのか――。物語にちりばめられた謎がひとつに繋がったとき、読者が味わうのは爽快感ではなく、プロローグで描かれた以上のやりきれなさだ。暗い影とともに華を背負う、それが上流階級なのだと自覚した、斗輝子に向かって放たれる「貴女は、そういうことの積み重ねの果てにいらっしゃる」という言葉も、重い。けれどだからこそ、階級社会に染まり切ることなく、自分の力で人生を切り開いていこうとする彼女の姿に救われもする。そんな彼女を飄々とあしらう怜司とのタッグもまた、心地よい。まだまだ明かされていない謎もあるようなので、ぜひともシリーズ化していただきたい作品である。

文=立花もも

※『華に影 令嬢は帝都に謎を追う』は『帝都東京華族少女』(幻冬舎文庫)を改題、大幅に加筆修正したものです。

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