「もう一度センターマイクに戻りたい」病気と闘い続ける宮川花子さんと支える大助さん、完全復帰を目指すふたりの人生劇場

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/5

あわてず、あせらず、あきらめず
『あわてず、あせらず、あきらめず』(宮川大助・花子/主婦の友社)

 大切な人が突然、余命半年の宣告を受けたら、あなたならどうするだろうか。そして自らの命が長くないと告げられたら、あなたはどう闘うだろうか。芸の道に精進し、公私ともに支え合ってきた宮川大助・花子さんが、闘病の日々とそれぞれの思いをつづった『あわてず、あせらず、あきらめず』(宮川大助・花子/主婦の友社)を上梓した。

宮川大助・花子

 花子さんが自分の身体に異変を感じたのは2018年3月、12kmのウォーキングイベントに参加したときのこと。5km近辺で腰がひどく痛み、途中からは歩けなくなり、2人のマネージャーの肩を借りながらやっとのことで歩ききった。花子さんはフルマラソンを完走しているので、いつもであればウォーキングでゴールできないはずがない。

 あまりにも痛がる花子さんを大助さんが病院へ連れていったところ、「転移性骨腫瘍」の疑いがあって、背中の2番と5番の骨ががんに侵されているということがわかった。そのときに医者が口にした「もし内臓から転移して背骨にきていたら余命半年くらいかな」という言葉に大助さんは顔面蒼白になる。花子さんは帰りの車の中で、「ああ、もう死ぬんか」とそればかりを考えていたという。

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宮川大助・花子

 それでも周囲には病気のことを隠し、放射線治療をしながら舞台に立ち続けるが、最初の診断から10カ月後、多発性骨髄腫、いわゆる血液のがんと診断される。このときは、「余命1週間、治っても生涯、車椅子だと思って、腹をくくってください」と再度の余命宣告を受ける。このときの衝撃、抗がん剤へのためらい、世間に公表しなかった理由も明かされている。予断を許さぬ病状から、完全に麻痺していた神経が奇跡的に戻り、奇跡の回復をしていく過程、リハビリ、排泄の苦労についてもありのままに描かれている。

宮川大助・花子

 この本が闘病の記録だけにとどまらないのは、病や苦しみの中にあっても、それを受け止めて周りに感謝しながら前向きに生きて行く姿が全編を通して伝わってくるからだ。その生き方を表す言葉の数々は、多くの人が不安に包まれながら暮らしている今だからこそ、心に残る。

 本の中からいくつか印象的な言葉をあげてみよう。

・闘病生活と言いますが、闘っているのは医師や看護師さん、看護助手さん、リハビリの先生、作業療法士さん、部屋を掃除しに来てくれる係の人、(中略)。私はそれに便乗していただけです。(花子さん)

・嫁はんが見せてくれる笑顔は最高で、僕も自然と笑顔になり、元気になる。「夫婦」は仲さえ良ければ史上最強の味方です。(大助さん)

・私は起こったことは仕方がないと思って、その先を考えます。そうすると同じ出来事なのに、気持ちがまったく違うのです。(花子さん)

・「あわてず、あせらず、あきらめず」コロナが落ち着いたら何をしようかと前向きに考えています。それだけで気持ちが落ち着きます。(花子さん)

宮川大助・花子

 この本のカバーイラストは、当初はお箸を持つことすら難しかった花子さんが描いたものだという。2人の最大の目標は、このイラストのように「なんばグランド花月」のセンターマイクに戻ること。その日のために今日もリハビリをし、準備をしている。2人が夫婦漫才で舞台に戻ってくる日を心待ちにしたい。

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