病院は治療を行う場所であり、治療をやめる場所――北海道を舞台に新人医師たちの失敗や成長を描く青春群像劇

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/5

ホワイトルーキーズ
『ホワイトルーキーズ』(佐竹アキノリ/主婦の友インフォス)

 誰にだって新人時代がある。最初の一歩がある。それは人の命を守る医師という職業だって同じだ。『ホワイトルーキーズ』(佐竹アキノリ/主婦の友インフォス)は、初期研修医たちの青春を描き出した作品。美しくかつ爽やかなカバーイラストは『青くて痛くて脆い』や『レゾンデートルの祈り』などのイラストも手がけた人気イラストレーター・ふすい氏によるもの。この作品を読むと、今まで知らなかった新人医師たちの生活がありありとみえてくる。一つひとつ苦難と向き合いながら確かに成長していく彼らの姿がまぶしく目に映るのだ。

 医学部の学生は大学を卒業し、医師国家試験に合格すると、晴れて医師免許を手にすることになるが、その後、待ち受けているのが、2年間の初期研修だ。学生時代も臨床実習で現場を少しは経験するが、実際に医師として働くのは、もちろん初めてのこと。指導医につき従いながら、自身も患者を担当。まだ専門のない1年目は、1〜2カ月ごとに「内科」「外科」「産婦人科」「小児科」などあらゆる診療科を目まぐるしく経験しながら、現場を学んでいく。

 北海道の片田舎にある空知総合病院。2020年4月、コロナ禍の真っ只中、そんな初期研修をスタートすることになった4人の新人医師がこの物語の主人公だ。工学部の大学院を修了後、医学部に編入した風見司。軽薄そうに見えるが、実は貧しい母子家庭に生まれ、生活苦の中で医師を目指してきた朝倉雄介。知識が豊富な優等生キャラだが、ちょっぴりドジっ子の清水涼子。都内私立大学の医学部を卒業後、実家の医院があるこの地方に戻ってきた沢井詩織。彼らはチュートリアルもほとんどないまま、いきなり病棟へ。電子カルテの使い方もわからないし、病棟の備品の場所も知らない。コロナ禍で交流も少ないから、医師や看護師の顔もよく覚えられない。毎日先輩についていくのがやっと。そんな日々の中で、彼らは失敗と成長、喜びを分かち合いながら院内を奔走することになる。

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 医学生時代と研修医としての日々はまるで異なるらしい。たとえば、風見は研修初日からおおいに戸惑うことになる。「先生、患者さんが息してません! 来てください!」。スタッフステーションに駆け込んできた看護師の声が聞こえるも、周囲に医師の姿はなく、「先生」というのが自分だと認識するのに時間がかかる。とにかく病室へと向かい、学生時代に習ったことを思い出しながら初期対応。コロナ禍だが、素手での胸部圧迫は適切なのか。心電図波形によって次の対応は変わってくるが、自分にできるのか。頭の中が真っ白になりかけたタイミングで指導医が現れ、患者は無事救命されたが、医師は人の命を預かっているのだということを初日から風見は痛感する。そして、彼らは研修の中で、病院ではすべての命を救えるわけではないということも学んでいくことになるのだ。病院は治療を行う場所であり、治療をやめる場所でもある。いい医者とは何なのだろうか。自分のなりたい医者とはどういう姿なのか。一人ひとりの患者と向き合いながら、研修医たちは思い悩んでいく。

 夜間や休日の救急外来を担当する当直の時間。24時間365日いつ鳴るかわからない電話。知識があっても上手くできない採血などの手技と、同期との地道な練習…。新人医師たちの毎日は苦労の連続。その奮闘をどうして応援せずにいられるだろうか。そして、同時に、人の命を守る医師という職業に改めて尊敬の念を抱かずにはいられなくなる。悩み苦しみながらも、確かに成長していく新人医師たち。その懸命な姿に静かな感動を覚える1冊。

文=アサトーミナミ

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