少年少女の合唱×成長物語が、大人にもさわやかな読後感をくれる『ソノリティ はじまりのうた』

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/20

ソノリティ はじまりのうた
ソノリティ はじまりのうた』(佐藤いつ子/KADOKAWA)

 学生時代、桜のころはいつも、「今年こそはなにかを成し遂げたい」と期待に満ちた気分でいた。その「なにか」の正体さえわからないまま、学業や進路、友人関係に悩んでいるうち、あっというまに日々は過ぎた。楽しい思い出ばかりではなかったはずだが、春になり、真新しい制服に身を包んだ若い人たちを見ていると、まぶしいような思いがする。大人になったわたしたちは、迷い、悩んでばかりいたあの日々こそ、無限の選択肢と未知にあふれたすばらしい季節だったと知っているからだ。

ソノリティ はじまりのうた』(佐藤いつ子/KADOKAWA)の登場人物たちも、そういった輝かしい季節を生きる中学生たちである。

 主人公の水野早紀は、中学校の1年生。吹奏楽部に所属しているが、先輩に押しつけられるようにして担当した楽器を愛せず、退部を許さない父親にも逆らえず、迷いながらも現状維持で過ごしている。さらに気が重いことには、吹奏楽部というだけで、クラス単位で参加する合唱コンクールの指揮者を任されてしまった。おとなしく目立つタイプではない早紀にとっては、大変なプレッシャーだ。

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 そんな早紀をなにかにつけ助けているのが、合唱の伴奏担当で幼稚園のころからの幼なじみ、井川音心(そうる)。彼は早紀と同じピアノ教室に通っていたが、本格的な教室に転籍するほどの才能を持っている。早紀を助ける音心を見て、合唱に協力するようになったのはバスケ部の男子・山東涼万(りょうま)だ。なんでも器用にこなす涼万だが、声変わりの時期を迎え、なにごとにも熱心になれない自分を自覚し、戸惑いを感じている。そんな涼万に淡い思いを寄せるのが、女子バスケ部の金田晴美。彼女は元気な仕切り屋タイプだからこそ、胸に秘めた気持ちを言い出せない。彼らが早紀に協力する一方で、武井岳はバスケ部での練習に打ち込み、合唱の練習をサボっている。クラスの中では目立つポジションにいる岳ではあるが、実は家庭環境と折り合えず、内なる孤独に悩んでいた。

ソノリティ はじまりのうた

 クラスメイトたちは、さまざまな思いを抱え、早紀の指揮棒の前に立つ。それぞれの個性は、旋律が響き合うかのように、たがいに影響を与えていく。しかし、歌声がようやくまとまったかに思えた合唱コンクールの本番直前、思いもかけないアクシデントが発生し……。

 かたちの残らない音楽のように、その一瞬だけの光を放つ青春時代。周囲と触れ合い、傷つきながらも“自分らしさ”を見つけ出そうともがく中学生たちの葛藤は、読み手の胸をまっすぐに打つ。東大王・岡本沙紀さんも「チームワーク、友情、恋愛を生き生きと描いた、これは、あなたの物語。きっと期待に胸が膨らみます」と絶賛する珠玉の成長物語からは、今まさにかけがえのない季節を生きている人も、その季節を知る大人も、共感とともにさわやかな読後感を得ることができるだろう。

文=三田ゆき

◆『ソノリティ はじまりのうた』の試し読み(第1話)
https://kadobun.jp/trial/sonority/7epu7jglhskc.html

◆東大王、作家、書店員が太鼓判! 『ソノリティ はじまりのうた』感想コメント
https://yomeruba.com/news/entry-12842.html

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