人生の最期をどんな形で締めくくりたいか――。葬儀屋の世界を通して描かれる「死生観」

マンガ

公開日:2022/4/16

終のひと
『終のひと』(清水俊/双葉社)

 身内が亡くなり葬儀に参列するたび、僕は必ずと言っていいほど自分の「死生観」について考える。自分はどんな風に人生を締めくくりたいのか。いつも明確な答えは出ないが「人生の最期くらい、自分の思い通りの幕引きにしたいもんだ」とは思う。

『終のひと』(清水俊/双葉社)はそんな「死生観」にスポットが当てられている作品だ。葬儀屋で働く2人の主人公を通して、亡くなる人それぞれの人生の締めくくり方がリアルに描かれている。

 主人公は、医療機器メーカーの営業マンとして働く梵幸太郎。彼は医師の顔色を窺い、ノルマとにらめっこする日々に嫌気がさしていた。いまの仕事が「人の役に立ちたい」と思う彼の理想と、大きくかけ離れていたからである。ただ、やりがいを見出すための転職も考えられない。下手に欲を出して逆らうと生きづらくなる気がしていたからだ。

advertisement

 そんなある日彼に、母・恵美子の訃報が伝えられる。あまりにも突然の出来事だった。医師から今後のことや葬儀について説明されるも頭に入らない幸太郎。それもそうだ、ついさっき家族が亡くなったと知らされて平気でいられるわけがない。こんな時、支えになるのは父親や兄弟姉妹だが、幸太郎の父は幼少期に他界しており、兄弟姉妹もいない。

 では誰がその時の彼を支えたのか。それはもう1人の主人公で嗣江葬儀店の社長の嗣江宗助だ。作中では、サバサバした性格で裏表なく正直になんでも言葉にする宗助が、葬儀屋として最後まで幸太郎に寄り添う姿が描かれる。

 第1話で描かれるのは、母・恵美子の「死生観」だ。幸太郎は、恵美子が生前書いていたエンディングノートの内容から、最も望んでいたであろう弔い方を選択する。僕はそこに、これまで親戚に頼らず、シングルマザーとして幸太郎を育ててきた彼女の人生への尊重の意が込められているように感じた。幸太郎が選んだ弔い方とは……?

 本書では、普段なかなか知れない葬儀屋の仕事についてもリアルに描かれている。例えばご遺体を葬儀当日まで安置する方法について。一般的に、腐敗防止としてドライアイスを脱脂綿に包んで当てるが、その際は着替えや旅支度に支障をきたす関節を拘縮させない配慮が必要なのだとか。

 他にも葬儀形式の違いや、生活保護受給者に対し葬儀費用を自治体が支給する制度「葬祭扶助」、葬儀屋に依頼せず自分達で故人を弔う「DIY葬儀」についても詳しく描かれている。

「最期の瞬間」を見守る立場である葬儀屋たち。彼らの目に映る「死」と、僕らのそれとは異なるのか。本作でぜひ確かめてもらいたい。

文=トヤカン

あわせて読みたい