次の連休が待ち遠しい…。2000連休を経験した奇才の衝撃ノンフィクション!

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/11

人は2000連休を与えられるとどうなるのか?
人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』(上田啓太/河出書房新社)

 ゴールデンウィークが終わってしまった今、次の連休が待ち遠しくて仕方がないという人は少なくないだろう。だが、そう思えるのは、私たちが会社や学校での複雑な人間関係の中、毎日を忙しく過ごしているせいなのかもしれない。日々の労働や勉強があるからこそ、休みの日が輝いてみえる。「ずっと休みが続けばいいのに」と思ったことがある人もいるだろうが、もし実際に休みが延々と続いたとして、本当にそれを楽しむことができるだろうか。

「休日が大好き」「ずっと休んでいたい」というすべての人に読んでほしいのが、『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』(上田啓太/河出書房新社)。累計1000万PVの奇才・上田啓太さんによる衝撃の書だ。上田さんは過去に2190連休、6年間にわたる休日を経験したことがあるという。本書は、その日々を描き出したノンフィクション。読めば読むほど、予想外の展開に度肝を抜かれる1冊だ。

 京都大学卒業後、人生に行き詰まりを感じて仕事を辞めた上田さんは、女友達・杉松の借りている家の1畳半の物置で居候生活を送ることになった。最初は素晴らしい解放感に包まれ、昼間からビールを飲んだり、思うがままに二度寝や夜更かしを楽しんでいたりしたが、4カ月経つと、社会と一切関わりのない日々に不安を感じ始める。10カ月経つと、日常から刺激が消えたせいか、やたらと昔のことを思い出して、鬱々としてきた。心の問題と向き合うために、運動に挑戦してみたり、生活習慣の記録をしてその改善を試みたり、図書館で大量の本を読むようになったり。やがて、上田さんは、果てしない思考の奔流の中、自分自身と向き合い続けることになる。

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 この本で描かれる連休はちっとも羨ましく思えない。休みが大好きな人も上田さんの連休をみると、「こんな休みは嫌だ」と思ってしまうのではないだろうか。同居人・杉松と飼い猫・毛玉以外との関わりはほぼなく、社会とのつながりがない日々の中で、上田さんは自己と向き合わざるを得なくなる。人間の身体はどういう時にどんな反応するのか。そのひとつひとつをつぶさに観察し始めるのだ。

 今までの記憶をすべて書き出したら、人間のトラウマは解消されるのか? 文字を読むことをやめたら、思考は静かになるのか? 鏡に向かって「おまえは誰だ」と言い続けたら、人間はどうなってしまうのか? 食事・睡眠・排泄以外の行動を禁止したら、人間は何を考えるようになるのか? …ここまで自分自身と向き合い続けた経験がある人はなかなかいないだろう。連休の中で上田さんが行った実験はどれも興味深いが、どこか狂気じみてもいる。そんな彼はまるで哲学者だ。そうでないなら、何らかの修行者のようだ。外部からの刺激を避け、自己への実験と観察を続ける上田さんはだんだん「自分」という存在が薄れ始めていくことを感じていく。そんな予想外の展開は読むものを圧倒し続けるのだ。

 巨大すぎる休日は人間をこんなにも狂わせてしまうものなのか。この本を読むと、長すぎる連休にちょっぴり恐ろしさを感じてしまう。休みは適度に取るのが一番なのかもしれない。休みの日を喜べるのは、日頃の忙しさがあってこそなのだろう。そう思えば、忙しい毎日も決して悪いものではないのかもしれない。あなたもこのノンフィクションを読んで、自分の多忙な毎日と、そして、休日について、思いを巡らせてみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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