世界を揺らす問題の「なぜ?」がよくわかる! 大人こそ読みたいやさしく学べる地政学

社会

更新日:2022/6/8

13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海
13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』(田中孝幸/東洋経済新報社)

 世界のニュースを目にしたとき、それが起きている理由や背景にある歴史を知った上でその事実を受け止めている人は、どれぐらいいるだろうか。学校で世界史はひととおり習っていても、今、世界で起きている問題の本質を知らない人も多いと思う。大人として最低限の知識はほしいけど、忙しい毎日に追われて後回しになっている……そんな人が読むべき1冊が、『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』(田中孝幸/東洋経済新報社)だ。

 本書の著者は、新聞記者20年超のキャリアの中、40カ国以上で政治経済や文化にいたるまで幅広く取材してきた国際政治記者・田中孝幸氏。地理的条件から世界政治を解く「地政学」の視点から、3人の登場人物による物語形式で、世界の動きをわかりやすく伝える1冊だ。主人公は、高校1年生の大樹と中学1年生の杏のきょうだい。彼らが、アンティークショップの店主で、常人離れした風貌から「カイゾク」と呼ばれる謎の男から、1日ひとつのテーマで7日間にわたり、世界で起きていることの理由を学ぶというストーリーだ。

 その話題は、中国が南シナ海にこだわる理由やロシアが抱える地政学的事情、海を制する世界最強のアメリカ、アフリカが豊かになれない背景、敗戦国である日本が先の大戦に勝った国を憎んでいないのに憎まれてしまう理由などに及ぶ。ネットやテレビのニュースでは知ることのできない世界の「なぜ」を、3人の会話を通してわかりやすく伝えている。

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 進学校で成績トップクラスだが世界への興味は人並みな兄と、ファッション好きで勉強が苦手な妹が、地球儀を囲んで銀髪の大男から世界を学ぶ。世界史の知識はある程度持っていて、ニュースも人並みに見ているという読者は、兄・大樹の視点に近いだろう。大樹は学校で習った知識で、ときに妹に用語解説をしながら、カイゾクの話に心を奪われていく。そして予備知識ゼロの杏は、大国のやり方に「ずるい」と言ったり、初めて聞く名前に「誰だっけ?」と聞いたりと、素直な反応と好奇心で、カイゾクの言葉を引き出す。優等生の大樹にとっては恥ずかしいようなこともストレートに聞いてくれるから、知識欲と「今さら聞けない」というプライドが心の中でせめぎ合う、大人の読者も救われる。世界を知る上での大前提である大きな流れがわかるため、知ったかぶりを卒業したい大人こそ読むべき1冊なのだ。

 3人の人物描写や会話の表現も豊かで、純粋に物語としても楽しい。強面で屈強だが、実は優しさと知性に満ちたカイゾクの過去とは。将来の夢がないという悩みを抱える大樹は、7日間でどう変わっていくのか。知識欲だけでなく、物語の先が知りたいという好奇心から、ページをめくる手が止まらない。

 そして、この本が教える地政学は、内向きな思考に走る危険性や、相手の立場でものを考えることなど、変わり続けるこの世界で生きるために大切なことを伝える。世界を学ぶこの本で読者が最後にたどり着くのは、私はこれからどう生きるべきか? というごくパーソナルな問いだ。世界情勢だけでなく、自分自身の価値観や人生に対しても、視界を大きく広げてくれる1冊。

文=川辺美希

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