「起業=会社を設立する」は誤解? 今、起業をめざす人たちに伝えたい“事業アイデア”の作り方

ビジネス

公開日:2022/6/14

起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?
起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』(新井一/総合法令出版)

 起業のハードルは下がった。働き方改革やコロナ禍の影響で、副業の自由度もだいぶ広がった現代。自分の趣味やスキルを生かして、ビジネスを立ち上げたいと考えている人たちは、少なくないだろう。

 ただ、「お金の不安」や「失敗の恐怖」などがつきまとい、起業への第一歩を踏み出せない人たちもいるはずだ。そんな人たちに読んでほしいのが『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』(新井一/総合法令出版)である。会社員のまま始める起業準備サロン「起業18フォーラム」を主宰し、過去に“1万人”の起業をプロデュースした経験を持つ著者は、起業を志す人たちの不安を、一つひとつていねいに解消してくれる。

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会社設立は必要? 世の中でよく見かける「起業」への誤解

 起業にはいくつかの誤解がある。例えば、「起業=会社を設立する」というイメージは、代表的な例だ。また、会社を辞めて起業し「独立したら収入は大きく減る」という懸念や、「起業=大失敗する人が多い」といった声もよく耳にする。

 しかし、著者は「起業して何をするかは、本当に自由」だと主張する。例えば、会社を設立する必要はなく、人によっては「個人(事業)のまま数千万円を売り上げている人」もいる。収入面では「仕事の実績がダイレクトに成果に反映され、お金を得る」ことも可能で、失敗に対しては「お金や時間、手間をかけずにとことん小さく始める」のを意識してスタートすれば、万が一の場合も再チャレンジしやすいという。

 不安に駆られるのは仕方ないが「起業して想定外のことが起きたらどうしよう!」と思い、一歩を踏み出さないのはもったいない。著者は「起業はもっと自由に富んでいて、楽しいものですよ」と背中を押す。

身の丈に合った「コスト」でスタート。会社員経験にとらわれない

 昨今は、本業以外の収入源を持つ“副業”や、複数の職業をかけもちする“複業”といった言葉を耳にする機会も多くなってきた。ネットの普及した現代では、起業するハードルも低くなっているが、著者は「会社員のお小遣いの月平均が3万円以上4万円未満」の時代で、「初期コスト(起業をするときにかかるお金)と運転コスト(事業を続けるためにかかるお金)を合わせて月1万円以下でスタートできるビジネス」を考えてみようとすすめる。

 起業した人びとの体験談も多く収録している本書では、実際に「今あるものを使って起業」をした経験を持つ人の例が紹介されている。

 バナーやWebサイトの制作を手がける経験者は、自身で持っていた「中古のパソコン」を使い起業したため初期コストは「0円」だった。一方の運転コストは「年間約8万円」であり、「画像作成ソフトのサブスクリプションや画像素材の購入、Webサーバー費用やWi-Fi費用など」にあてていて、毎月「10〜15万円ほど」の売上金になっているという。

 身の丈に合った範囲で始める。起業の第一歩に欠かせない要素とも言えそうだが、成功事例もあれば、失敗事例もある。著者は「会社員として優秀な成績を挙げている人」が、起業に「失敗」してしまうケースがあるという。

 例えば、会社員としての営業成績は「会社の持つ看板、かばん(資金)、顧客など」が要因の可能性もある。一方、起業した「個人」としては、周囲からの「信用」がない状態からビジネスをスタートさせなくてはならない場合も多い。

 過去に著者が「起業アイデア」をチェックした人は、メールへ添付された資料に「表やデータの数字がたくさん書かれた、壮大な事業計画書」をまとめてきたという。ただ、この人の会社では添付の形式で資料を作るのが常識だったのかもしれないが、部外者が読むには適切だったのか。「人が自分に割いてくれる時間は一瞬」と述べる著者は、「よほど暇な人でない限り、そんなことに付き合ってはくれません」と、手厳しい一言を投げかける。

 会社員としての経験にとらわれるのではなく、もう少し柔軟に、考え方の幅を広げてみる。そんな姿勢も、起業への第一歩を踏むためには必要だ。

好きなことや興味から広げる…。漠然とした「アイデア」を具体化するプロセス

 好きなことで起業したい。でも、何をすればいいか分からない…。そう考えながら、起業に二の足を踏んでいる人たちもいるだろう。この悩みに答えるべく、著者は起業のアイデアを具体化していく「アプローチ」の方法も紹介している。

 例えば、自分の趣味が「旅行」だと考えてもらいたい。そうすると「旅行が好きで旅行ビジネスで起業したいのなら、そのまま旅行代理店を目指す」という選択肢も思い浮かぶが、旅行代理店の設立要件は厳しく現実的ではない。しかし、いったんハードルを下げて、豊富な旅行経験を生かして「おすすめのコースやスケジュール」を作り「旅のしおり」にまとめて提供する「旅先提案ビジネス」を小規模で始めようと考えると、実現できそうな気がしてくるはずだ。

 また、反対の思考で「何らかの事情で旅行に行けない人、行きたくない人」に注目する掘り下げ方もある。

 例えば、旅行の“裏面”に注目すると「社員旅行や修学旅行に行きたくない人の心のケア」「行きたいのに休みが取れない、飛行機が苦手などの理由で行けない人のサポート」など、ビジネスのアイデアは広がっていく。

 実際、この考え方で起業した人もいる。本書で取り上げられているのは「犬のお散歩代行」を手がけた女性だ。女性は当初「ペットと一緒に旅行ができない人」をターゲットにして「ペットホテルを開業」しようと考えた。しかし、ペットホテルの開業には多額の資金がかかるため断念。ハードルの低い「犬のお散歩代行」を始めたところ、「病気やけが」を理由に犬を散歩に連れていけない飼い主からの依頼が殺到するようになったという。

 当初、思い浮かべていたアイデアが、現実と照らし合わせる中で変化していくのも起業にはよくあること。著者は「まずは発想してみることが大切」だと述べる。

 本書ではこれらの他にも「商品」の作り方や、集客に役立つ「SNS」での発信方法など、起業したての人や起業準備中の人に役立つ情報を多数掲載している。自身の持つ「夢の実現」に向けて、学びたい人には必須の1冊だ。

文=カネコシュウヘイ

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