紫式部『源氏物語 五帖 若紫』あらすじ紹介。恋焦がれる義母との過ち。さらには、10歳の少女に一目惚れして誘拐!?

文芸・カルチャー

更新日:2024/3/13

 誰もが知っている古典作品、『源氏物語』。教科書で勉強したことがあるけど、原文を読むのは難しいというイメージがあるかもしれません。しかし、現代にも通ずる魅力あふれるストーリーは一見の価値があります。本稿では、第5章「若紫」のあらすじを分かりやすく簡潔にご紹介します。

源氏物語 若紫

『源氏物語 若紫』の作品解説

『源氏物語』とは千年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「若紫」で源氏が新たに思いを寄せる相手は、なんと10歳の幼い少女。さすがにすぐに恋人にしようというわけではありませんが、自分が後ろ盾となり養育しながら自分好みの理想の女性に仕立て上げようという魂胆があるようです。とはいえ、18歳の青年が10歳の少女に執着するのは当時も驚くべき状況で、同じ寝床で寝ようとする源氏に少女も気味悪がる様子が描かれ、聖人君子ではなく人間味のある源氏の姿が、一つの魅力でもあるように感じます。また、恋焦がれる藤壺との関係も大きな進展を見せ、非常にセンセーショナルな場面とも言えるでしょう。

これまでのあらすじ

 美しい継母・藤壺の宮を心に思いながら、恋人のもとに通う源氏。偶然出会った美しく可憐な女性・夕顔とも恋仲になるが、夕顔は嵐の夜に儚く命を落としてしまう。彼女を妬む他の恋人が生霊として現れ、死に至らしめたようだった。突然訪れた夕顔との死別や、以前片思いをしていた空蝉との別れを嘆く源氏だった。

『源氏物語 若紫』の主な登場人物

光源氏:18歳。地位も才能も持つ見目麗しい貴公子。

葵の上:22歳。源氏の正妻であるが「飾り物のような美しさ」と評される。

藤壺:23歳。帝の妻で、源氏にとっては継母でもある。

尼君:40歳過ぎ。紫の上の祖母で、養育者。

少女:このとき10歳。若紫とも呼ばれる。後の紫の上。

『源氏物語 若紫』のあらすじ​​

 源氏は病を患い、加持祈祷のため北山を訪れていた。そこで、美しい少女を垣間見て、源氏は一目で心を惹かれる。10歳くらいのその少女は、密かに恋焦がれる藤壺によく似ており、聞けば藤壺の兄・兵部卿の宮の娘であるということだった。まだ妻にするにはあまりに幼い少女だが、手元において育てながら、理想の女性に仕立て上げたいと思う源氏は、少女を育てる尼君のもとに熱心に通い引き取りたいと懇願するが受け入れられない。しかし、尼君は病がちで、周囲は少女の将来に不安を感じていた。

 都に戻った源氏は、気が進まないながら、妻のいる左大臣邸に顔を出すが、夫婦関係はうまくいかない。

 源氏が少女に執心している頃、宮中では藤壺が体調を崩し、里下りをしていた。これを好機と捉えた源氏は、2度目の逢瀬を求め藤壺は再び許してしまう。1度ならず2度も関係を持ってしまったことを悔やみ、さらに懐妊の兆候が現れ始め、重ねて苦しむことになる。藤壺は、お腹の子の父が帝ではなく、源氏であることを知っていたのだった。事実を知らない帝は懐妊を聞き、いっそう藤壺を寵愛した。

 一方、かの尼君は亡くなり、実の父である兵部卿の宮が少女を引き取りに現れる。その情報をつかんだ源氏は、強引に少女をさらって自身の自宅に囲い込んでしまう。当初は不安になる少女であったが、次第に緊張はほぐれ、可愛らしくなつく様子にますます愛おしさが募る源氏だった。源氏の膝の上に座って人形遊びやお絵かきをして過ごすふたりの様子は、とても美しいものだった。

<第6回に続く>

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