紫式部『源氏物語 二十一帖 乙女』あらすじ紹介。 源氏の息子・夕霧に与えられた試練と苦い初恋。幼い恋を阻む大人の事情

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/12

 平安文学の名作として知られる『源氏物語』は、千年以上たった今でも世界中で読み継がれている作品です。教科書で取り扱われることも多い作品ですが、古文で書かれていることや長編であることから、全文を読んだことがある人は少ないかもしれません。全体のあらすじを知りたいという方のために一章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第21章「乙女(おとめ)」をご紹介します。

源氏物語 二十一帖 乙女

『源氏物語 乙女』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「乙女」で主人公になるのは、源氏の息子・夕霧です。12歳の彼の初恋の相手は、源氏の親友の娘・雲居雁(くもいのかり)。いとこ同士であるふたりは、幼い頃から祖母の大宮に育てられ、一つ屋根の下で暮らしながら密かに恋を育んできたようです。大宮邸の周囲の大人たちはふたりの関係に気付き見逃していましたが、このことを知った雲居雁の父(以前の頭中将、現在の内大臣)は驚き、激怒します。雲居雁の父により一旦は引き裂かれてしまいますが、今後恋の行方に注目です。ちなみに、「乙女」は、雲居雁のことではなく、彼女と離れ離れになった寂しさを埋めるため夕霧が歌を贈った別の女性のこと。稀代のプレイボーイの子である夕霧も、血は争えないということでしょうか。

これまでのあらすじ

 内大臣という高い職位に就いた源氏は、以前のような向こう見ずな恋はできないと自制して過ごしていたが、若い頃から慕っていた朝顔の姫宮が神職を辞したことを機に、熱烈なアプローチを仕掛けていた。このことは世間にも噂になり、源氏の妻・紫の上は焦燥を感じていた。しかし、朝顔の姫宮はつれない態度で源氏に身を許すことはなかった。

『源氏物語 乙女』の主な登場人物

光源氏:33~35歳。内大臣から太政大臣に昇進。

夕霧:12~14歳。源氏と亡き妻・葵の上の子。

雲居雁:14~16歳。父は現・内大臣(以前の頭中将)。

内大臣:以前の頭中将で右大将から昇進。源氏の古くからの親友でありライバル。

大宮:夕霧と雲居雁の祖母。葵の上と現・内大臣の母。

秋好中宮:24~26歳。完成した六条院に移り住む。

五節(ごせち)の舞姫:源氏の乳母子である惟光(これみつ)の娘。

『源氏物語 乙女』のあらすじ​​

 源氏と亡き妻・葵の上との子である夕霧が12歳で元服した。本来であれば貴族の子である夕霧は四位という身分につくこともできたが、六位という低い位で大学に入学した。夕霧を育てた祖母・大宮は、この処遇に不満であったが、幼い夕霧がいきなり高い位について学問も疎かにして遊んでいると、後々痛い目にあうという源氏の考えがあってのことであった。夕霧本人も、父の方針を恨めしく思ってはいたが、まじめな人柄ゆえ、より集中して勉学に取り組むために花散里が管理する二条東院に住まいを移し、学問に打ち込んだ。その甲斐あって、夕霧は見事な成績を修めていった。

 同じ頃、源氏の養女である斎宮女御が冷泉帝の中宮(秋好中宮)となった。斎宮女御より早く入内していた右大将(以前の頭中将)の娘・弘徽殿女御やほかの並みいるライバルを抑えてのことであった。源氏は太政大臣に、右大将は内大臣に昇進し、両氏の一族は栄華を極めた。

 この内大臣には、弘徽殿女御のほかに、もう一人娘がいた。この娘・雲居雁も高貴な血筋ではあるが、内大臣は雲居雁を弘徽殿女御より下に見ていたため、内大臣の母で雲居雁にとっては祖母である大宮に預けて養育を任せていた。弘徽殿女御が中宮の座を得られなかった今、雲居雁を東宮(皇太子)の妃にしようと考えていた矢先、雲居雁と夕霧が恋仲であるらしいという話を耳にして愕然とする。激怒した内大臣は、雲居雁を大宮邸から引き取り、ふたりは引き離されることになった。

 落ち込む夕霧であったが、五節の舞姫に選ばれた娘(源氏の乳母子である惟光の子)を見て雲居雁の姿を思い出し、娘に歌を贈って雲居雁への気持ちを紛らわせた。源氏も、以前舞姫だった恋人(筑紫の五節)に歌を贈って、昔を懐かしんだ。翌秋、夕霧は五位に昇進し侍従に任じられたが、相変わらず雲居雁と会うことはできなかった。

 翌年の八月には、源氏をとりまく女君を住まわせるための六条院が完成した。春夏秋冬を表した庭を持つ四つの町から成る豪邸で、春の町には紫の上、夏の町には花散里が入った。やがて里下がりした秋好中宮が秋の町に入り、遅れて明石の君が冬の町に移り住んだ。

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