紫式部『源氏物語 四帖 夕顔』あらすじ紹介。生き霊に殺された!? 源氏に愛された薄命のヒロインの最期

文芸・カルチャー

更新日:2024/3/13

 千年前の物語でありながら色あせることのない名作『源氏物語』。教科書で勉強した時の難しいイメージがあるかもしれませんが、とても魅力的で人間味溢れる登場人物に今も共感する部分が多くあります。しかし、長編の物語を全て読み通すのは難しいのでは? そこで本稿では、第4章「夕顔」のあらすじを分かりやすく簡潔にご紹介します。

源氏物語 夕顔

『源氏物語 夕顔』の作品解説

『源氏物語』とは千年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「夕顔」は源氏に愛されながら、儚く命を落とす薄命のヒロイン。美人で可憐なだけでなく、おっとりとしていて素直な夕顔は、現代の男性にも魅力的に映るのではないでしょうか。また、源氏に飽きられてぞんざいな扱いを受け生き霊と化す女性(のちに源氏の年上の恋人である六条御息所の生き霊と判明する)との対比は、源氏物語の中でも特にドラマチックなストーリーになっています。

これまでのあらすじ

 源氏は、人妻の空蝉に恋をするが、なかなか思い通りにはならない。拒絶されるほどのめり込む源氏は、夜更けに空蝉の部屋に忍び込む。しかし、源氏の香りを察知した空蝉はそっと部屋を抜け出し、源氏は残された空蝉の継娘・軒端の荻と一夜を過ごす。翌朝、空蝉が残していった薄衣を形見のように持ち帰り、衣を蝉の抜け殻にたとえて歌を送る。冷たくあしらう空蝉だったが、「私の袖は密かに涙で濡れています」という返歌をした。

『源氏物語 夕顔』の主な登場人物

光源氏:このとき17歳。芸術や学問の才能に溢れた美男子。

夕顔:美しく源氏の恋人となる。可憐で素直、従順な女性。

惟光(これみつ):源氏の従者。源氏の乳母の実子で、源氏とは乳兄弟にあたる。

右近(うこん):夕顔の侍女。

『源氏物語 夕顔』のあらすじ​​

 源氏が、六条あたりの恋人のもとに通っている頃、乳母が病に伏しているということで、見舞いに訪ねて行った。乳母の隣の家はひどくみすぼらしい様子だったが、垣根に白い花が美しく咲いているのに目が留まる。源氏が眺めていると、家の中の人から、その白い夕顔の花と共に、香を焚き染めた白い扇が贈られた。扇には「源氏の君かとお見受けします。白露に光る夕顔の花のような、あなたは…」という品のある歌が走り書きしてあった。興味を持った源氏は、従者の惟光を使いにやり、「確かめてみてはどうでしょうか? 夕顔の花、それが誰なのかを」と返歌をする。この美しい女性・夕顔を気に入った源氏は、お互いの素性を明かさぬまま恋人になり、逢瀬を重ねていく。

 8月15日の満月の夜、夕顔の家で過ごした源氏は、もっと静かなところでふたりきりで過ごしたいと言い、夕顔の侍女・右近も連れて、近くの廃墟のような邸に出かけた。その夜、ふたりの枕元に美しい女の生き霊が現れ、「こんなたいしたことのない女を可愛がるなんて恨めしい」と言う夢を見て源氏は目を覚ます。夕顔は怯えて震えながら気を失い、そのままあっけなく息を引き取った。

 その後、悪評が立つのを恐れ、夕顔の死は内密にされたが、愛する恋人を失った源氏は、悲しみのあまり寝込んでしまう。そして、右近の話から、夕顔はかつて頭中将の愛人であり正妻からの嫌がらせを受けて身を隠していたことや、ふたりの間には3歳になる娘がいることを知った。

 時を同じくして、かつて源氏が恋をした空蝉は夫について伊予国に下っていった。軒端の荻は蔵人少将と付き合っていると聞く。源氏は時雨の降る秋の空をぼんやりと眺めながら、夕顔や空蝉のことを思い出し、別れを嘆き悲しんだ。

<第5回に続く>

あわせて読みたい