紫式部『源氏物語 十六帖 関屋』あらすじ紹介。源氏が落とせなかった人妻・空蝉。12年の時を経て仕掛ける恋の行方は

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/31

 古典文学として世界的にも有名な『源氏物語』ですが、古文で書かれていることや長編であることから、全文を読んだことがある人は少ないかもしれません。詳しい内容を知りたい、平安時代の文化や恋愛に興味があるという方のために一章ずつあらすじをまとめました。今回は、第16章「関屋(せきや)」の解説とあらすじをご紹介します。

源氏物語 関屋

『源氏物語 関屋』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

 前章に引き続き、源氏が17~18歳の頃に出会った恋の相手との再会が描かれます。どんなに求められても源氏をきっぱりと振った空蝉ですが、この再会では源氏のアプローチに心が揺れます。12年前の強引さとは違う大人の余裕を見せる源氏に、恋心を認めざるをえません。かといって、恋に溺れるわけではなく、慎み深さは以前と変わりません。ここにまた、源氏を引き付ける空蝉の魅力があるのかもしれません。

これまでのあらすじ

 須磨から都へ帰り、政界へと復帰した源氏。最愛の妻・紫の上との再会を喜ぶ一方で、明石の君との間に生まれた姫君のことも気にかかっていた。内大臣という重要なポストに就き、以前のように軽々しく恋人のところに通うこともできなくなっていたが、ふとしたことで末摘花の邸を訪れ再会を果たす。草が生い茂り荒れ果てた邸で、ひたすら源氏のことを信じ待ち続けていた彼女の心に打たれ、生活の援助を約束。後に末摘花は二条院東院に移り住むことになった。

『源氏物語 関屋』の主な登場人物

光源氏:29歳。17歳の時にすでに人妻であった空蝉に出会い恋をし、強引に関係を結ぶ。

空蝉:年上の夫(伊予介)と結婚。偶然出会った源氏と一度関係を持つが、その後も言い寄る源氏を拒絶する。

『源氏物語 関屋』のあらすじ​​

 空蝉の夫・伊予介(いよのすけ)は常陸介(ひたちのすけ)となり、空蝉も赴任先に同行していた。そこで、源氏の須磨退居の一件を知るが、連絡をする手立てを知らず見舞いも出せずにいた。

 源氏が都に戻った翌年の秋、夫の任期が終わり、空蝉もまた帰京する。常陸介一行が逢坂の関に入るちょうどその日に、源氏も石山寺に参詣していた。一行は源氏の車を通し、色とりどりの見事な旅装束と紅葉を重ね合わせて眺めた。

 源氏は車から空蝉の弟・右衛門佐(うえもんのすけ・かつての小君)を呼び寄せ、空蝉に「逢坂の関まであなたを迎えに来た私の心を見捨てないだろうね」と伝えさせる。空蝉は、しみじみと昔のことを思い出し、「常陸に行くときも帰るときも涙をせき止めることができない。この気持ちを殿(源氏)は知らないだろう」と思う。かつてあれほどまでに拒絶した源氏に対し、今は空蝉の恋心は揺れ動いていた。

 そうしているうちに、夫の常陸介は老いて病気がちになり、子供たちに空蝉のことを託して、ついに亡くなった。血の繋がらない継子の河内守(かわちのかみ)は、義理の母である空蝉に次第に言い寄るようになった。河内守の下心に悩んだ空蝉は、人知れず出家をしてしまった。

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