定期的な性行為は、健康と長生きに効果あり! 頻繁なオーガズムが死亡リスクを半減させるというデータも/最強脳のつくり方大全⑦

健康・美容

公開日:2024/4/10

最強脳のつくり方大全』(ジェームズ・グッドウィン:著、森嶋マリ:翻訳/文藝春秋)第7回【全8回】

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最強脳のつくり方大全
『最強脳のつくり方大全』(ジェームズ・グッドウィン:著、森嶋マリ:翻訳/文藝春秋)

頻繁な性行為と長寿の関係

 すべての文化圏が、古代ギリシアほど先見の明があるわけではない。フランス語ではオーガズムを〝小さな死(la petite mort)〟と呼ぶ。それはヨーロッパでは昔から、〝セックスは体に害がある〟とされていたことの名残りだ。その考え方は、〝男性は女性に触れないほうが良い(注10)〟という教会による社会的束縛を広めるのに好都合だった。

 英国の一部の年齢層の男性なら、〝マスターベーションをすると目が見えなくなる〟という、今となっては滑稽でしかない迷信を覚えているだろう。インドや中国では、射精は命を縮めると信じられていた。男性は歳を取るにつれて、射精の回数を減らすべきだと言われていたのだ。それを考えれば、迷信を否定する根拠を示してくれた科学に感謝しなければならない。

 この50年間におこなわれた科学的研究によって、生涯を通じてマスターベーションも含めた定期的な性行為が、健康と長生きに効果があることが明らかになった。

 逆もまた真なりで、生涯を通じて、健康であれば性的な関係が維持できる。エビデンスを見てみよう。

 

 ある事実に、多くの男性はほっと胸を撫でおろすだろう。その事実とは、性交中に死亡することはあっても、死因がオーガズムであることはめったにないというものだ。

 2006年、ドイツでおこなわれた3万2000件の死体解剖によると、オーガズムが死因だったのはわずか68件で、そのほぼすべてが売春がらみの性行為だった(いくら注意しても、この手の行為はなくならない)。この結果に多少なりとも意気消沈している男性がいるとしたら、いくらか慰めになる研究結果もある。30年に及ぶケアフィリー縦断研究(1979年にはじまり、45〜59歳の男性2235人が対象)で、オーガズムを頻繁に経験している人ほど、死亡リスクが半減することが判明した。いわゆる用量効果が見られるのだ。

 つまり、少なくとも男性の場合は、オーガズムの回数が多いほど、死亡リスクが低くなる。これを発表した研究チームは、英国人らしい控えめな表現とやや皮肉なユーモアを交えて、〝もしこの結果が現実に再現されたら健康増進プログラムに大きな影響が出る〟と結論づけた(注11)。

 

 それだけではない。2235人の被験者のうち、67人が10年後に心臓発作で死亡し、83人が別の死因で亡くなった。さらに、〝性的活動が頻繁である〟と答えた被験者の死亡率を調べると、性行為を週に2回おこなっていた男性の死亡率は、月に1回おこなっていた男性の死亡率の半分だった。これもまた用量効果だ。性交渉の回数が増えれば増えるほど、死亡リスクが減っていた。

 批評家はこの結果にすぐに飛びついて、性行為と健康は関連しているが、長生きなのは性行為のせいではないと主張した。その関係は逆で、心身ともに健康だから長く生きるのであって、性行為の頻度が主な原因ではない、と。

 批評家の反論とは裏腹に、性行為の頻度が高い男性と低い男性では、喫煙習慣、体重、血圧、心臓病などに大きな差はなかった。また、性行為の頻度がとりわけ高い人が、ずばぬけて健康なわけでもなかった。

 というわけで、中高年男性の場合、定期的な性行為が死亡率を低下させるらしい。これまた健康関連企業が喜びそうな結果だ。とはいえ、英国国民保健サービスが公表できるのは、〝週に1回の性行為が病気を防ぐ可能性がある(注12)ということだけだ。

 もうひとつ大切なことをつけ加えておこう。これは男性に限ったことではない。スウェーデンでおこなわれた166人の男性と、226人の女性を対象にした研究では、男女にかかわらず、性的活動がなくなると死亡リスクが大幅に上昇するという結果が出た。

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愛人

 なぜ、性行為の回数が多いと寿命が延びるのか? その理由のひとつは、代謝に関していくつもの良い効果があるからだ。太り過ぎを防ぎ、心拍数が安定し、血圧が低下する。〝セックスは3マイル(約5キロ)のランニングと同じぐらい体に良い〟と言われ、この言葉は実際に検証されている。

 カナダの研究チームは、20〜30歳の異性愛者カップル21組を対象に実験をおこなった。性交中のエネルギー消費量を測定し、ランニングマシーンで中程度のスピードで30分走ったときのエネルギー消費量と比較した。

 果たして、その結果は? 性交中の男性の平均消費カロリーは101カロリー(毎分4.2キロカロリー)で、女性は69カロリー(毎分3.1キロカロリー)だった。第2章で触れたメッツによる平均活動レベルは男性で6.0メッツ、女性で5.6メッツと中レベルだった。一方、ランニングでは男性の毎分消費カロリーは9.2キロカロリー、女性は7.1キロカロリーだ。というわけで、性行為はランニングほどカロリーを消費しないが、それでも適度な有酸素運動になる。

 近頃デンマークでおこなわれた興味深い研究では、逆の効果が発見されている。運動によって勃起機能が向上し、性的能力が高まるというのだ。その研究によって、40分間の中〜強強度の運動を週に4回、半年間続けると、勃起機能が向上することがわかった。

 さらに性的能力に関して、自己強化的なメカニズムが働く。定期的な性行為によって、男性はテストステロンの値が上がり、性的能力が向上する。また、女性では生殖サイクルが向上し、更年期の症状が緩和される。

 頻繁な性行為と長寿の関係については、ほかにも興味深い説がある。20〜50歳の女性129人を対象にした遺伝子の研究で、定期的に性行為をおこなっている女性のほうがテロメアが長いことがわかった(テロメアは染色体の末端にあって、DNAのほころびを防いでいる。ほころびのない長いテロメアは長寿につながる)。だが、これはひとつの要因に過ぎないだろう。パートナーとの性行為の親密さや幸福感、それに伴うリラックス効果が大きく影響していると思われ、それは多くの研究で立証されている。

 

 フレデリック・ホリック医師は1898年に出版した権威ある医学書『結婚の手引 一般に利用するためのわかりやすく実用的な論説』の中で、夫婦間の生殖以外の目的での性交渉は、人間にとって有害で、死に至ることもあると断言している。

 マスターベーションという言葉をあえて出さずに、1章を費やしてその害悪を説き、男女ともにこうむるその淫らな悪癖の悪影響を列記している。〝大いなる倦怠感と憂鬱……多くの場合、記憶力が急速に低下し、ひとつのことに気持ちを向けられなくなり、絶えずぼんやりする。ときに落ち着きが欠如し、完全なる愚行に走る〟とのことだ。

 こういったことを、世間も表面上は支持した。表面上は●●●●と言うのは、当時のロンドンでは、600万人の人口に対して、約5万人の娼婦がいて、間違いなくその手のサービスが提供されていたからだ。

 

注10 I Corinthians, chapter 7, verse 1.

注11 P. Elwood, J. Galante, J. Pickering, S. Palmer, A. Bayer, Y. Ben-Shlomo et al.,‘Healthy lifestyles reduce the incidence of chronic diseases and dementia: evidence from the Caerphilly Cohort Study’, PLoS ONE, Vol. 8, No. 12, 2013, e81877.

注12 ‘Benefits of love and sex’, https://fisd.oxfordshire.gov.uk/kb5/oxfordshire/directory/advice.page?id=YhqER5vFjpA.

<第8回に続く>

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