脳トレゲームは役に立たない!? 効果的なのは物事をグループ化して記憶する“連合学習”/最強脳のつくり方大全⑧

健康・美容

公開日:2024/4/11

最強脳のつくり方大全』(ジェームズ・グッドウィン:著、森嶋マリ:翻訳/文藝春秋)第8回【全8回】

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最強脳のつくり方大全
『最強脳のつくり方大全』(ジェームズ・グッドウィン:著、森嶋マリ:翻訳/文藝春秋)

脳トレゲームは役に立たない

 脳の中では毎日、神経発生と呼ばれるプロセスで数百もの新たな細胞が作られている。動物実験では、作られる数に関係なく、新たな細胞の約半分が1〜2週間以内に死ぬことがわかっている。そういった細胞は既存の脳細胞とつながる前に死んでしまう。だが、この細胞死は避けられないものではない。脳を鍛えれば食い止められるのだ。

 

 科学技術によって動いているこの複雑な世界では、日々、過剰な思考能力、記憶力、集中力が求められる。それができなければ、ほかの人に追い越され、期待にも応えられない。この状況は、人の脳が進化してきた環境とはまるで違っている。今という時代は、過去になかった種類のデータを大量に処理して、入ってくるデータすべてに対処する能力が必要だ。そういった新たな能力の習得は、〝脳への不正侵入(ハッキング)〟と呼ばれることもある。

 現代人は人間の限界を超える方法を模索しているのだ。そのプレッシャーは欧米社会の高齢化によって、さらに重くのしかかる。すでに解説した通り、歳を取るにつれて頭の回転は鈍る。日々、能力を試される現代人にとって、健康管理や仕事を続けていくうえで、頭を鈍らせないようにすることが最大の関心事と言ってもいい。

 

 というわけで、多くの人が知力を高める〝脳トレ〟に惹かれて、ついお金をつぎこんでしまう。2005年、アメリカ人は脳を鍛えるためのゲームに200万ドルを費やした。2013年には、その額は3億ドルに増え、2014年にはなんと10億ドルに達した。ヨーロッパ、英国、アジアでも事情は同じだ。その手のゲームの効果は誇張され、中には裁判沙汰になるほど大袈裟なものもある。

 そういったゲームは大人だけでなく、赤ん坊もターゲットにしている。

 1996年、ごく普通のある夜に、米国ジョージア州の専業主婦ジュリー・エイグナー゠クラークはあることを思いついた。赤ちゃんの脳を刺激するビデオを作ったらどうだろう?

 そうして、『ベビー・アインシュタイン』が誕生した。最初のビデオは自宅の地下室で撮影して、かかった費用はわずか1万8000ドルだった。2001年、エイグナー゠クラークはその版権を2500万ドルでディズニーに売却した。また、数々のテレビ番組(『オプラ・ウィンフリー・ショー』、『グッド・モーニング・アメリカ』、『USAトゥディ』)にも出演した。

 さらに、2007年のジョージ・W・ブッシュ大統領の一般教書演説で、スター起業家として讃えられた。『ベビー・アインシュタイン』はシリーズ化され、『ベビー・ヴァン・ゴッホ』『ベビー・ガリレオ』『ベビー・シェイクスピア』と、次々に続編が作られた。

 幼児の脳に早い段階で適切な●●●刺激を与え、発達を促すというのが商品の謳い文句で、2002年には、アメリカ中の親子が『ベビー・アインシュタイン』の虜になった。その影響は大袈裟に語るほうが難しい。何しろ当時の米国の幼児の3分の1が、この〝天才赤ちゃん〟ビデオを少なくとも1回は観ていると言われているのだ。

 そのシリーズの宣伝担当者は、「間違いない! クラシック音楽と迫力ある映像が子供の脳を刺激する」と宣言した。

 

 だが、その主張には問題があった。それを裏づける証拠が何もないのだ。なぜかといえば、当時はその種の研究はひとつもおこなわれておらず、ゆえに、証拠もなかった。

 2007年のある学術論文誌に、幼児向けのDVDやビデオを1時間観るごとに、観なかった幼児に比べて理解する言葉の数が平均6〜8個少なくなる、とする研究結果が掲載された。ビデオの製作者は反発したが、2009年にバブルがはじけた。ディズニーはその手のビデオに教育的価値がないことを認め、やがて権利を売却した。続編はもう作られなかった。

『ベビー・アインシュタイン』はある意味ですばらしい例だ。総売上4億ドルとも言われるほど商業的に大成功をおさめたのは、科学的なメリットがなくても親なら誰もが飛びつきたくなるアイディアのおかげだ。そういった例はほかにもある。とはいえ、直感的に惹きつけられるアイディアはさておき、本章では脳トレの効果を示す証拠を検証していく。

 

 脳トレの効果を何よりも明らかにしてくれたのは、人間の幼児ではなく、本章の冒頭で取りあげた脳細胞の発生の研究で実験台となった小動物だ。そう、脳内の細胞死は間違いなく〝メンタルトレーニング〟によって阻止できる。しかしそのトレーニング方法は昔ながらのものではなく、いくつかの条件がある。新たな細胞を生かしつづけるには、集中的におこなう必要がある。高度な集中力が求められ、新しいスキルが身につくものでなければならない。さらに、長い間、毎日、多くの試練を乗り越えながら、続ける必要がある。

 

 効果があるものとないものを、より詳しく見ていけばさらに興味が湧くはずだ。

 効果的なトレーニングのひとつに、心理学用語で〝連合学習〟と呼ばれるものがある。この種の学習を人間はよくおこなっている。その原理は、関連づけられる(結びつけられる)情報や考え方は、より簡単に学習できるというものだ。

 逆に言えば、脳は関連のない事柄を学習して記憶するようにはできていない。物事をグループ化して、ひとつの〝連合記憶〟にするのだ。たとえば、人は誰かの顔の造作を個々に覚えるのではなく、顔全体として記憶する。なんと、500年以上前にレオナルド・ダ・ヴィンチはこの原理に気づき、『絵画論』に書いている。

 

〝すべてのパーツは……全体と対応していなければならない……暗闇やベッドの中で、その輪郭を頭の中でたどることで、少なからず効果を実感している……この方法で確認し、記憶の中に大切にしまっておくのだ(注1)〟

 

連合学習は条件づけの一種で、報酬とともに新たな行動が定着することを意味している。

 

注1 Leonardo da Vinci, A Treatise on Painting (New York: Dover, 2005), unabridged re-issue of John Francis Rigaud’s translation as published by George Bell & Sons, London, 1877, pp. 4, 7.

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