「ミーちゃん、猫缶を食べる。」/『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記1』②

文芸・カルチャー

更新日:2019/7/26

神様の眷属ミーちゃんを助け、転生することになった青年ネロ。彼に懐いたミーちゃんと一緒に、異世界での生活を頑張ります! 鑑定スキルと料理の腕でギルド職人をしたり、商人になったり…異世界のんびりモフモフ生活!

『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記1』(にゃんたろう:著、岩崎美奈子:イラスト/KADOKAWA)

 取り敢えず、路地裏から表通りに出ると、この町が結構大きな町だということがわかった。そんな表通りを、ミーちゃんを抱っこして適当に歩いていると公園を見つけた。中にはいくつもベンチがあるけど、どれも座られている。仕方ないので花壇の脇の石に座ることにした。

 ミーちゃんを抱っこしたまま、バッグの中からハウツーブックを出して読むことにする。

 ミーちゃんは俺の腕の中でおとなしくしている。とてもお利口さんだ。そんなミーちゃんをずっと見ていても飽きないけど、情報収集は大事だから読みますか。

 まずこの国はルミエール王国というらしく、この世界では大きな国の一つで他国との争いごとも少ない国らしい。種族同士の差別もなく比較的住みやすい国みたいだ。

 この世界は国同士で戦争するよりも、たくさん居るモンスターを退治する方が優先されるようだ。といって、戦争がないわけではないようだ。領土拡大、世界制覇などと自己顕示欲を満たそうとする愚か者はどこにでも居るってことだね。

 さて、今いる町はクアルトという商業都市。この国の西側にある比較的大きな町と書いてある。読み進めていくと、一般常識的な知識などが書いてあり、その中に貨幣価値について書かれている箇所もある。

 単位はレト、貨幣価値は一レト一円くらい。

 金貨 100000レト
 大銀貨 10000レト
 小銀貨 1000レト
 大銅貨 100レト
 小銅貨 10レト

 となっていて、金貨の上にも貨幣があるようだけど当分は関係ない。神様がお金を持たせてくれると言っていたので、バッグの中を探してみると革でできた財布があった。結構入っている。

 本には他にもこまごまと、生活様式や身分制度など役に立つことが書いてある。そしてペラペラとめくり最後のページを開くと、急いで書いたような文章が添えられていた。

 なになに、ミーちゃんが俺を気に入って勝手について行った。ついて行ったことに問題はないけど、当分は帰りたくても元の神界に帰れないらしい。俺をこの世界に送り込んだことにより、当分この世界に繋がる道を作れないそうだ。なので、ミーちゃんの面倒を見てほしいと書いてある。

 そうか、帰れなくなっちゃったのか。俺はこの世界で天涯孤独の身、神界でミーちゃんの帰りを待つ神様には悪いけど、ミーちゃんが一緒なら寂しくないね。

「よろしくね。ミーちゃん」

「み〜!」

 ミーちゃんが顔をペロペロしてくる。くすぐったい。

 ミーちゃんとのスキンシップは名残惜しいけど、取り敢えず今日の宿でも探しますか。さすがに野宿は現代人の俺には厳しい。なんとかお金を稼いで毎日宿には泊まれるようにならないとね。

 そんなことを考えながら通りを歩いていると、『憩いの宿木亭』という看板が目に留まる。中に入り女将さんらしき人に声を掛けてみた。

「すみません。今日ここに泊まれますか?」

「もちろんだよ。何泊だい」

「一泊、おいくらですか?」

「素泊まりは三千レト、朝晩二食付きで四千レトだよ」

 素泊まり三千円、食事は一食五百円ってところか、まだこの世界の標準物価はわからないけど今の俺のお財布事情ではこの辺が妥当だと思う。でも、お金を稼ぐ手段のない今無駄遣いはできない。

「連泊するので、まけてくれませんか?」

「しっかりした子だね。そうだね、五連泊してくれたら朝食付けてあげるよ」

「二食付きにした場合はどうです?」

「朝食代の四百レトをまけてあげる。どうだい?」

 一泊三千六百レトか。言ってみるものだね。

「それでお願いします。それから、この子も一緒なんですけどいいですか?」

「み〜」

「あら、別嬪さんだね。構わないけど、おしっこはやたらめったらされると困るよ。兄さんが掃除だからね」

「善処します……」

 前金でお金を払い、鍵を貰った。

「二階の二番の部屋だよ。それから、共同浴場は五つの鐘が鳴ってからだから気を付けなよ」

 一般の家には風呂はないようだけど、比較的大きな町には共同浴場があるそうだ。元日本人だから風呂があるのは嬉しいね。

 部屋に入ると狭いが綺麗な部屋だ。ベッドにテーブルに椅子、小さいけどタンスもある。ベッドに座り、ミーちゃんをベッドに降ろすと丸くなってスピスピ寝てしまった。

 寝てしまったミーちゃんをなでなでしながら、そういえば部屋に鏡がないなと気付く。今の俺はどんな顔をしているのだろう? 町中を歩いてみたところ、色々な人種がいることは確認できた。ちょっと見ただけだけど、異世界の定番である頭の上に耳の付いた獣人さんや、二足歩行のトカゲさんまで居た。

 人の顔立ちは西洋風も居れば、東洋風の人も居る。統一感がなかったので、どんな顔立ちでも問題はないと思う。

 神様から貰ったバッグの中身を確認する為、全部出してみる。ハウツーブック、替えの洋服に下着が四セット、タオル二枚にバスタオル、石鹸に歯ブラシセット、ヘアブラシが二本、小さい鏡、革の財布だ。

 ヘアブラシの一本はミーちゃん用と鑑定できた。あの神様、ミーちゃんにはとても甘い方のようだね。後でミーちゃんをブラッシングしてあげよう。喜んでくれるかな?

 小さい鏡で顔をみると、元の俺をハーフにしたような顔立ち。髪の色は濃いグレーで目の色はブルー。可もなく不可もなくといった感じ、できればイケメンにしてほしかった。残念。

 財布の中身は宿代を払いちょっと減ったけど金貨五枚、大銀貨八枚、小銀貨二枚だ。なんと、六十万レトも持たしてくれたようだ。神様に感謝。無駄遣いはできないね。

 ベッドに横になって、ハウツーブックを読む。

 どうやらこの世界にはモンスターのボス的存在が居るらしい。人族はそのボスを倒すことにより人が住める場所を増やすけど、モンスターのボス……面倒なのでファンタジーっぽく魔王と呼ぶことにしよう。で、その魔王に逆に攻撃され奪われることもあるらしい。この国は今のところ比較的落ちついた情勢なのだそうだ。

 今は安定している情勢とはいえ、モンスターや魔王に関しては神様は一切関知していないので、いつ不安定になるかわからないとも書いてある。

 そんなことに巻き込まれたくはないけど、強くなるのに越したことはないから強くなろう。

 読んでいる本を横目に可愛い寝顔のミーちゃんを見ていたら、なんか眠くなってきた……。

「すぴぴー」

ミーちゃん、猫缶を食べる。

 鐘の音で目が覚める。うーん、いつの間にか眠ってしまったようだ。ミーちゃんは俺の横でまだ寝ている。鐘が五回鳴った気がするので夕方五時ってことかな。

 この世界の時間関係は地球と同じで一日は二十四時間、週という概念はないけど、ひと月はだいたい三十日くらい。なぜくらい…かといえば、国によって違うかららしい。天文学みたいなのがあるようだけど、国が管理していて年始に一度国民に知らされることになっているようだね。

 時間を知らせるのは鐘で十二時間をワンセットにして二回、一時なら一回鐘が鳴り、二時なら二回鐘が鳴る。十二回鳴った次の鐘は一回に戻るといった感じ。会話の中で一の鐘分って言ったら一時間のことになるそうだ。

 夕食時間が五の鐘からとも言っていたな。ちょっと早いけど食べてからお風呂に行こう。寝ているミーちゃんを優しくゆすって起こすと、寝惚け眼を向けてきた。

「ミーちゃん。ご飯に行こうか」

「み〜?」

 あれ? お腹空いてないのかな? じゃあ俺だけ食べてこよう。ミーちゃんの分は後で女将さんに言って分けて貰えば良いだろう。

 と思ったけどなぜかミーちゃんが甘噛みしてくる。どうしたんだろう?

「どうしたの?」

「み〜み〜」

 バッグを小さな可愛い前脚でテシテシ叩いている。か、可愛い……じゃなかった。バッグを開けてあげると、頭を突っ込みゴソゴソ何かをしている。遊んでいるのだろうか? そう思っていると、ハウツーブックを咥えて引っ張り出してきた。

 ミーちゃんは器用にガイドブックを広げて、最後のページをテシテシしている。読めってことかな? そのページは神様が走り書きした場所だ。まだ、ちゃんと読んでいない部分だね。

 読んでみるとミーちゃんについてのことが書かれていて、とても可愛いがっていたことがわかる。最後にP.S.とありミーちゃんのご飯について書かれている。ミーちゃんは高級猫缶しか食べない。神猫だけあって何を食べても問題ないようだけど、高級猫缶が大好き。って言われましても……。

『大変申し訳ありませんがあなたの能力を変更し、高級猫缶をいつでも出せる能力を付けさせていただきました。ミーちゃんをよろしくね。てへぺろ♪』って書いてあった……。

 本気すっか、能力の変更だなんて……聞いてないよ。神様〜。

 鑑定スキルは使っている。では他のスキルどうなんだろう。どうやって調べれば良いのだ? しばらく悩んだ結果、自分を鑑定してみる。鑑定すると透明な板に内容が書かれている。そしてその内容は、非常に弱いと出ている他にスキルが並んでいて、鑑定、マップ、運気上昇……猫用品!?

 猫用品ですかぁ、戦闘スキル関係の身体強化と弓技がない……こんな危険な世界で神様は俺にどうしろと仰るのですか! 俺って非常に弱いみたいだし……。

 神様の書いた文章の最後に、変更したスキルは頑張れば取れますよ♪ って書いてある。すぐに必要なスキルなのですけど。どう頑張れと?

「みぃ……」

「いいんだよ。ミーちゃんが悪いわけじゃない。俺が頑張ればいいだけなんだ。よね……」

「み〜」

「うぅっ……」

 ミーちゃんが泣きそうな俺の体を登ってきて、顔をペロペロしてくれる。うぁぁん、泣くもんか、泣いてなんかやらないぞ! 俺はやればできる子……のはずだ。頑張って生き残ってやるぞ! 俺の為にも、そしてミーちゃんの為にもな!

 取り敢えず、ご飯にしようか。今悩んでもどうしようもない。まずはお腹を満たしてからゆっくり考えよう。

 宿の食堂兼飲み屋に降りて行くと、女将さんに声を掛けられた。

「食事にするかい?」

「はい。お願いします」

「その子の分はどうするんだい?」

「皿とお水を頂けますか」

「あいよ」

 さてミーちゃんのご飯だけど、どうやって高級猫缶を出すのだろうか? 急いでいたからなのか、神様の文章に使い方の説明がなかった。

 高級猫缶……出ない。猫缶……出ない。ミーちゃんのご飯……出ない。猫用品……出た!?

 目の前に透明な板が出てきて猫用品が書いてあり、猫缶、ミネラルウォーター(軟水)の二つがある。猫缶にタッチしてみると目の前に猫缶が出てきた。そして、なんか力が抜けていく。あれ? ちょっとだるい。どうやら、タダではないらしい、一度に何個も出すと大変なことになりそうだよ。注意が必要かも。

 暫くすると女将さんが料理と小さめのお皿二つと、水の入った木製のコップを持ってきてくれた。

「お待ちどうさん!」

「そういえば、名前を言うのを忘れてました。俺はネロ、この子はミーちゃんです」

「み〜」

「あははは、そうだったね。あたしはアンナ。好きに呼んどくれ」

 そう言って戻って行った。女将さんに名乗った名前はさっき鑑定で自分自身を見た時、名前がネロになっていたからだ。呼ばれ慣れているから問題ないので、ネロで良いかなって思っている。この世界では根路連太ではおかしいかもしれないからね。

 女将さんの持って来た料理は何かの炒め物、何かのシチュー、黒パンと鑑定できた。なんて曖昧な表現……これで鑑定できたと言えるのだろうか?

 ミーちゃん用にお皿が二つあるので、一つのお皿に猫缶を出してあげる。もう一つのお皿にコップの水を注ごうとすると、ミーちゃんが首を振って嫌々としてくる。

「お水はいらないの?」

「みぃ……」

 ん? 水、ミネラルウォーター……そういうこと? ミーちゃん用のミネラルウォーターだから軟水なんだ。任せなさい! 猫用品スキルを使い、ミネラルウォーターを召喚する。め、目眩が……。

「み〜」

 どうやら、正解のようです。ミネラルウォーターをお皿に注ぐと、今度は嫌々しなかった。

「頂きます」

「み〜」

 ミーちゃんも頂きますを言ってくれる。凄く嬉しい。

 召喚した猫缶は高級猫缶ではないみたいだけど、満足そうにハムハムしているので良いのかな? でもこれでミーちゃんの食べ物の心配はなくなったね。

 次の問題は俺の方だ。この世界の味は俺に合うのだろうか?

 見た目は美味しそうに見える。食べてみると、炒め物はピリッとした味付けで食欲が増進し、シチューはゴロッとした肉がとても柔らかく煮込まれていてスプーンで切れるほどだ。おかわりしてしまうくらいとても美味しい料理でしたが、全体的に味が薄い。でも十分に満足できる味だった。料理人の腕が良いのかもしれないね。

 ミーちゃんも食べ終わり、満足の模様。前脚をペロペロ舐めて顔を洗っている。その小さな体のどこに猫缶が全部入ったのだろうか? 不思議です。

「ごちそうさまでした」

「もう、いいのかい? ちゃんと食べないと強くなれないよ」

 食べて強くなれるのはフードファイターくらいなものですよ。女将さん。

<第3回に続く>

著者プロフィール:にゃんたろう 『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記』で、2018年カクヨムで実施された「第3回カクヨムWeb小説コンテスト」異世界ファンタジー部門特別賞を受賞