【宇垣美里・愛しのショコラ】ショコラマカロンのご褒美/第5回

小説・エッセイ

2020/6/5

 大きな仕事が終わった時、頑張ってきたことを人に認めてもらえた時、たてこんでいたスケジュールがやっと一息ついた時。私は決まってチョコレート味のマカロンを食べる。事前に温めておいたティーカップに淹れたお気に入りの紅茶と、海外旅行で買った1枚きりのアンティークのお皿。最高の環境を準備して臨むこの儀式は、大学生の頃からの私のルーティーンだ。

宇垣美里・愛しのショコラ

 きっかけは就活。たった数か月だったけれど、その密度と狂気と混乱はこの人生において今後どんなことがあったとしても、3本の指には入るだろう。
 セミナーや面接のために毎週のように上京し、待ち時間で必死になって大学のレポートを仕上げる日々。もちろん大学生にお金なんてないから移動はすべて夜行バス。他の業種はまだ就活自体が始まっておらず、周りの友人たちはまだそれまでのように穏やかな暮らしを続けていて、心底うらやましかったのを覚えている。

 その年になるまで関西以外の土地で暮らしたことのなかった私にとって、東京は広くて、怖くて、難しかった。電車の乗り換えにピリピリし続けることや、気にもしてなかったようなアクセントで関西弁だと指摘されること。東京で、専門のスクールに通っているような他の就活生たちに、ぬるいけん制をかけられること。それに気づかないふりをすること。1か月もたたないうちにその全てに疲れ果てた。いつしかそれまですることもなかった力ない愛想笑いが上手になった。

 そんなある日、東京から関西へと向かう夜行バスの見送りに来てくれた先輩が、「これ、すっごく頑張ってるからご褒美に……」とおずおず差し出してくれたのがマカロンだった。
 当時大学生だった私でも知ってる、有名ブランドの紙袋。ふらふらと夢見心地のまま乗り込んだ車内は相変わらず質素で、その差に少し笑ってしまった。箱を開けると、ころんと可愛らしい円形がきちんと整列して収められていて、一瞬でわざわざひとつひとつ、選んでくれたことが分かった。だってわかりやすいくらい色が偏っていたから。

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