【宇垣美里・愛しのショコラ】エクレアに溺れて眠りたい/第8回

小説・エッセイ

公開日:2020/9/4

 今日はよく頑張りました。長時間酷使した体はもうぼろぼろ。頭も回ってるんだかいないんだか、さっきからラインは打ち間違いだらけ。どうやら思った以上にポンコツみたい。ずっとスクリーンを見ていたからか、目の奥がチカチカと青く光って落ち着かない。ああ眼球を取り出して丸洗いできる機能があればいいのに。

宇垣美里・愛しのショコラ

 ギリギリ乗り込めた終電の座席に深く腰かけ、カバンをぎゅっと抱きしめることでどうにか体勢を保つ。やがて聞こえてきた耳なじみのあるアナウンス。慌てて車内からぼとりと吐き出されるように最寄り駅へと降り立つ。無様だ。ここからさらに家まで歩かなければならないかと思うと、なんだか泣いてしまいそう。溶解しかかった体に鞭打って改札を出ると、商店街は同じようにドロドロに疲れたサラリーマンがとぼとぼ歩く姿が散見されるくらいで、いたって静か。あいつもこいつも、なんだかゾンビみたい。人間としての尊厳と自我は既に失って、家と会社の往復をすることしかできない哀れなクリーチャー。って、私もか。

 こんなに疲れてるのに、なんで月はこんなに輝いているんだろうな。見ている人なんてここらじゃゾンビしかいないのに。無駄だ。無駄だけど、その無駄を愛するよ私は。へらりと笑って、ふらふらと蛾が引き寄せられるように、我がセーフティーポイント・コンビニへと入店。青白いLEDライトは月よりよっぽど肌に馴染む。ああ、カップラーメンを思いっきりすすりたい。油でぎっとぎとのやつを。安いアルコールで喉を焼きたい。体を痛めつけたい。でもその果てに待ってる後悔が目に見えているのでぐっと我慢。代わりにスイーツコーナーでエクレアに手を伸ばす。ほわほわでぷゆぷゆ、ぽてんと可愛いエクレアさんよ、荒ぶる私を沈めたまえ。

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