時に人を癒し、時に人を突き刺す「言葉」の力『盲目的な恋と友情』 /佐藤日向の#砂糖図書館①

アニメ

公開日:2020/10/10

佐藤日向

学校というのは、私たちが普段生活している空間とはまた別の独特な空気感とルールが
存在する特別な場所だと思う。

例えば大人になると女性はメイクをするのが普通という認識になるけど、
大抵の高校ではメイクは禁止されている。

自分が大人になるにつれ、
なぜこのルールに従っていたのだろう
なんて感じることはきっと
“大人”になったみんなが経験することだと
私は思う。

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『盲目的な恋と友情』は、
まさに子どもから大人へ移り変わる心情の変化が美しく、
そして残酷に描かれている作品だ。

だからこそ私が今大学生として、
そして役者として生活している中で、
この作品をふと思い出した時、
私を冷静にしてくれる。

『盲目的な恋と友情』は、タイトルの通り恋に対して、友情に対して、まるで砂時計の砂が落ちるようなスピードで徐々に、そして確実に周りが見えなくなっていく執着と破滅が詰め込まれた物語。

前半は「恋」、そして後半が「友情」の構成になっていて、二人の主人公の視点で徐々に人生が壊れていく様子が描かれている。

元タカラジェンヌの娘で容姿端麗な女の子と、自分の容姿に長年コンプレックスを抱いている女の子。

この正反対な二人が過ごした時間を同じ時間軸で”恋”の視点と”友情”の視点で見ることで、言葉や感情を正確に相手に届けることの難しさを私は痛感した。

そしてこの作品の1番の見所は、女の子特有の言葉では表しきれない危うさが終始散りばめられていること。

彼女達の言動に共感出来る部分がある一方で、これはやりすぎだ、怖いと思う場面も幾つかあった。

でも、誰しもが彼女たちのようにやり過ぎてしまい盲目的な状況に陥る可能性を秘めているのかもしれない。例えば《謝るのではなく、私も誰かに謝られたい。だから、自分がへり下る言葉ばかりが口を衝くのかもしれない。》という作中の文章。

普段生活している中で、本当に申し訳ないという気持ちで謝っている反面、「相手からも謝ってくれないだろうか」と期待を込めて謝罪をしてしまう瞬間がある私にとって、この言葉はあまりに印象的で、まるで自分に向けられたようだった。

もしかすると、私も何かに対して”盲目的”になってしまっているのではないか。強い感情的な言葉ではないのにそう思わざるを得なかった。

辻村さんの作品には、こういった何気ない言葉に気づかされる瞬間がある。

そしてラスト数ページのどんでん返しに向けて伏線が至るシーンに散りばめられていて、何度読み返しても新たな発見を物語から導き出せるのも、辻村さんが紡ぐ物語の魅力の一つだと思う。

どの作品も自分が予想していた結末を遥かに超えていて、ページをめくる手が止まらなくなる。ちなみにこの作品もそうだが、最初と最後で登場人物や物語に対して印象がガラッと変わるのも辻村さんの作品ならではだ。

「盲目的な恋と友情」は結婚式から始まりラストも結婚式で終わる。

だが、このシーンは恋と友情が絡み合い縺れた状態を詳しく知ったうえで自分も結婚式に参列しているような錯覚を起こす。そのくらい二人の女性の視点の違いは衝撃的だった。

私はこの物語を読み終えたあと自分自身の考え方や性格を形成するのはもしかすると周りの人間関係なのかもしれない、と感じた。

私たちが普段紡ぐ言葉は時に優しく、時に鋭利に相手に届いてしまう。

直接の会話だけでなくSNS上で簡単に不特定多数に言葉を発信出来るようになった今の時代だからこそ、是非堪能してもらいたい作品だ。

(次回更新は10月17日の予定です)

 

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

公式Twitter:@satohina1223
公式Instagram:sato._.hinata
レギュラー配信番組『佐藤さん家の日向ちゃん』:https://ch.nicovideo.jp/createvoice