努力/富田美憂の「私が私を見つけるまで」⑤

アニメ

公開日:2020/11/29

富田美憂の「私が私を見つけるまで」
イラスト:富田美憂

アミューズに所属してからすぐに、新人の女優さんモデルさん、俳優さんが集まって連日レッスンをする集中レッスンがあって、そこに私も参加することになりました。

ちょうど年明けの冬休みのタイミングだったので、比較的若い方が多い感じでした。

 

初めて一緒にレッスンを受ける方達と顔を合わせた時、最初に思ったのは「私だけ場違いなんじゃないか」ということでした。

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周りは女優さんやモデルさんで、綺麗な人ばかりでした。それに比べて自分は芋っぽくて綺麗なビジュアルとはかけ離れていて。どうしようもなく恥ずかしい気持ちになったことを、すごく覚えています。今だから言えますが、正直「帰りたいな」って思いました。

レッスンを受けている最中も、この気持ちは付き纏いました。自分がここにいていいのか、と。

 

ダンスレッスンの時も、みんなは振りを覚えるのが自分とは比べ物にならないくらい早くて上手でした。当時私はダンスの経験も全くなく、先生が目の前で踊った振り付けを真似することもできませんでした。

 

芝居のレッスンはマイク前のレッスンではなく、俳優さん達と一緒に体全体で表現する、いわゆるドラマや舞台の為のレッスン。

正直この時の私は「私は声優になりたいのに、こんなことをしても意味ないんじゃないか」と思っていました。

レッスンを受けている間は、同世代の子達と話したり、知らなかったことを知ることができたり、楽しいことも沢山ありましたが、頭の片隅にはずっと劣等感と疑問と不安があったんですよね。

 

ですが去年、声優の私が俳優さんに混じって体を動かしてレッスンをしていたことが正解だったんだと、確信した出来事がありました。

 

デビュー当時からお世話になっている音響監督の森下広人さんから、とある作品の打ち上げでこんなことを言っていただいたんです。

 

「富田さんは声優として声優らしすぎる道を最初に通らなかったからこそ、富田さんにしか出せない芝居の面白さがあると思いますよ」

 

他の現場の監督・スタッフさんからも「富田さんはいい意味でテンプレな芝居とちょっとズレた表現をしてくることがあって、それは我々から見てすごくおもしろいです。」と言って頂けることが多々あります。

 

もしかしたらこれは、私の強みなんじゃないかな、と。

 

当時私が思っていた「私は声優になりたいからこういうレッスンをしても意味が無いんじゃないか」という考えは間違っていて、正解の1つの形でもあったんです。

 

あの経験がなかったら、私は今声優のお仕事ができていなかったかもしれない。

 

だから、事務所に入ってすぐにあのようなレッスンの機会をくださった事務所の方、先生方、そしてレッスンを一緒に受けていた仲間に感謝です。本当に。

 

そして「私は周りより劣っている」からスタートしたことで、常にあのレッスンの時の気持ちを忘れず、自主練やレッスンを受ける前の準備の大切さを忘れずにいられています。これは、仕事をする人間なら当たり前のことですが。

私は練習をしないと怖くなってしまうんです。なぜなら周りより劣っているから。

だから、他の人の何倍も練習するぞ、という気持ちで、いつもライブなどに臨んでいます。

だって、私はできないことが多いから。じゃあ不安が消えるまで練習すればいい。簡単なことです。

アフレコも同じです。よく「富田さんは本当に噛まない」と言っていただくことが多いですが、単純に噛まなくなるまで練習しているからです。「噛む」という小さなミスに時間を使うくらいなら、私は芝居について考えることに時間を使いたい。

 

「若いのにしっかりしてるね」。これもよく言っていただきます。

でも本当は、若いのにしっかりしているんじゃなくて、ただ単に怖がりなだけなんです。失敗するのがすごく怖いだけ。だから失敗しないように努力は惜しまないです。そのための時間も惜しまないです。

 

昔に経験したこと全てがこうやって今に役立っているから、やっていて無駄なことなんてひとつもないんだなと、この記事を書きながら改めて思いました。

 

この気持ちは、何年この仕事を続けていくとしても自分のポリシーとして大切にしていたいことのひとつです。

(次回へ続く)