【宇垣美里・愛しのショコラ】ガトーショコラを焼きながら思うこと/第11回

小説・エッセイ

公開日:2020/12/4

 考えて考えて、考えすぎて頭がパンクしそうになったら、ガトーショコラを焼くと決めている。締め切りが迫っているのに筆の進まないエッセイや、その日の仕事を振り返っては「ああ、あの時もっと違ういい言葉があったはずなのに……」と今更したってどうしようもない後悔があたまをぐるぐる。大切な人なのに、大好きなのに素直になれなくってとってしまった冷たい態度。どうしてあんなこと、言ってしまったんだろう。どうでもいいはずがないのに。誰でもいいわけじゃないのに。自分のちっぽけなプライドを守りたいばっかりに張ってしまう見栄、ツンケンしちゃう頑なさと幼さがたまらなく嫌い。

宇垣美里・愛しのショコラ

 こんな風に自分のことがどうしても許せなくて情けなくて泣きそうになってしまう時は、何かを生み出すに限る。無心で何かを作り上げ、生産できる、ということを自分に見せつけるだけで、ちょっと傷が癒えていくのを感じるから。だから、私はガトーショコラを焼く。
筑前煮だってピザだって何でもいいんだけれど、ガトーショコラは作るまでに色々な工程があって飽きる暇がないのがいい。そして、なんてったって美味しい。

 このために買ってきた製菓用のチョコレートを細かく砕いて、湯煎してどろどろのペースト状に。バターも同じく湯煎して、チョコレートと温度を近づけておくのが上手に混ぜるためのポイント。卵を割って卵白と卵黄に分けるのは、なんだかゲームみたいでいつもわくわくする。卵白だけは冷蔵庫に移して、卵黄はグラニュー糖と白っぽくもったりするまで混ぜる。

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これだけで甘い香りがぷわんと漂ってなんだか美味しそう。我慢できずにひとすくい舐めると……なんだかざらざらと甘いだけ。分かってるのに毎回つまみ食いしてしまうのは、私だけなのかしら。