山田詠美さんの『A2Z』で知った愛のかたちは驚きだった。杉田陽平を形作った小説たち/杉田陽平の「妄想力が世界を変える」④

文芸・カルチャー

更新日:2020/12/7

『バチェロレッテ・ジャパン』で杉田陽平さんが注目された理由のひとつに、福田萌子さんに贈る言葉の美しさがありました。杉田さんの言葉はどれも紋切り型のものではなく、情熱的な愛情表現。そんな彼の言葉や感性はどのように育まれたのでしょうか?

 杉田陽平さんのパーソナリティを深掘りする連載。第4回は彼が影響を受けた作家やそれにまつわる思い出についてです。

女性の脳ってすごいなあ、って思っていた

 杉田さんに影響を受けた本を聞くと、山田詠美さんの『ファースト クラッシュ』や江國香織さんの『東京タワー』を本棚から出してきてくれました。そこにあるのはどれも女性作家の本ばかり。杉田さんは並ぶ本を眺めながら「たぶん僕は女性に憧れているんです」と言います。

「女性ってすごいなあって思うことが多いんですけど、僕は女性になることはできないから、女性作家の目を通して世界を見てみたいのかもしれないです。どういう風に脳が働いていて、どういう風に世界を見ているか気になるし、僕にとっては瑣末だと感じるようなことに驚くほど多角的に、瞬間的に感じることができて、語っていたりする。それがすごく新鮮で」

思い出深い山田詠美の『A2Z』

 女性作家の小説を意識して読むようになったきっかけは、山田詠美さんの『A2Z』だそう。その本には黒いカバーがついていました。

「僕が25歳でまだ学生だったとき、37歳の女性の友人がいて仲良くしてもらっていたんです。その人に、僕みたいな人が出ているから読んでみてと薦められて、読んでみたのが始まりです。返しそびれちゃってまだ手元にあるんですけど……。あるべき男女関係を打ち壊すような大人の恋のすべてが入った一冊なのですが、たとえば夫のいる女性がお金はないけど夢を追っている男性と恋をする話があったり。そこでは、女性の誕生日にボロボロのアパートで洗濯機の上にワインを置いて祝ったりするんですけど、それがすごくみずみずしくて幸せな時間だったりする。25歳の僕にとっては、こういう愛の形があるんだ、って驚きだったんですよね。夫との完璧な世界がすでにあるのに、なぜ女性はその若者に惹かれるんだろうって探究心がそそられた。

 それから女性の頭の中という自分にとって未知な世界に関心をもつようになりました。他にもたとえば、いつも叱咤されて嫌だなと思っていた上司がいるんだけど、ふとしたときに手を見たら血管が浮いていてセクシーだなとも同時に思ったりする。地味でなんの変哲もない男の子が居酒屋にいて、何気なくお箸で綺麗に枝豆の皮を剥いていたりする姿に女性は色気を感じたりする。そういう感性ってあまり男性にはないような気がするんですよね。そうやって昔から女性の眼差しに強い興味を持っていました。女性に対しての憧れがずっと強い気がしますね」

<第5回につづく>