旦那の家事のクオリティが低すぎる問題/ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。①

小説・エッセイ

公開日:2021/3/15

「聞きたい?」

 ん? そりゃ聞きたいよ。

「聞かない方が良いかも知れない事もあるのよ」

 え? どういう事? 最近怒られないじゃん。キチンと食器洗いやってるよ? 気になっている事があるなら言ってよ、参考になるし。

「じゃ言うわね」

 うん……。

「私が怒っていないとでも思っているの?」

 は?

「私だって、これだったら自分でやった方がマシだわ、と何度も思っているわよ」

 え?

「あなたは食器洗いをやっているだけ。家事をやってないの」

 へ?

「家事ってのは、家を快適に綺麗な状態を保つ為にやる事なの。あなたは何にもわかってない」

 ちょ、ちょっと……。

「同じ形のコップや食器を積み重ねて水切りかごに入れていくでしょう」

 そりゃ、同じ形の方が綺麗に重ねられるし、コンパクトに並べられる。それはそれでこだわっているんだよ。

「それじゃ乾かないの。密閉されて乾かないの」

 あ……。

「どうやって食器をしまっているのか? キッチンの床は濡れていないか? 後始末は私がやってます。そこまでがキッチンの家事。その通過点が食器洗い。あなたは食器洗いしかしていない。キッチンの家事の為の食器洗いをしてください。食器洗いをしています!エラいでしょ! じゃない」

 ものスゴイ量の妻の思っている事があふれ出てきました。

「ちなみに、油汚れとかが落ちていない時も結構あるよ。文句を言っても良かったんだけど、そっと食器を洗う場所に戻しているんだよね」

 え? そうなの?知らなかった! でもその時に言ってくれれば良かったじゃん!

「あまりに出来が悪くてイライラするから、もう自分でやってしまおうかしらとも思ったんだけど、あなたを見ていてちょっとずつレベルが上がってきているのはわかっていたから焦るのやめたの」

 あら。

「今、怒ってもめて結局自分でやるよりも、今我慢してちょっとずつスキルが上がっているならそれで良いかなと。ここまでくるのに結構な時間がかかったけど、この先、何十年も食器を洗ってくれると思ったら、これまでの時間は短いもんかなと。私も成長したでしょ」

 ご配慮ありがとうございます……。よく出来た国王様じゃ……。

 Sさんのお悩みのおかげで僕自身もいろいろ学ぶ事ができました。上記の妻から僕への食器洗いのリクエストも頭ごなしに言われたらちょっとムカッとくるかも知れませんが、大変な事を言われるかも……とハードルを上げてから僕の希望で聞いたので、スンナリと受け入れられました。話し合い方って大事ですね。今回妻と改めて話し合った事はとても有意義な時間でした。お互いを尊重しあう話し合い。プライスレスですよ。

 まとめますと、

 ●夫婦で話し合う内容は、旦那のやっていると思っている家事は点であって、線になっていない。線の途中なんだという説明を優しく言う、もしくは大変な重要な事を言うそぶりを見せた後、言う。

 ●そしてこれから先の結婚生活の長さを考えたら、旦那を育てた方が自分にとって都合が良いと思う。

 この2点でしょうか。お互い、わかっているでしょ?は実は怠慢かも知れませんね。骨の折れる作業かも知れませんが、皿が割れるよりはマシです。キッチンと話し合いましょう。

<第2回に続く>

土屋 礼央:つちや・れお●1976年9月1日生まれ。東京都国分寺市出身。RAG FAIRとして2001年にメジャーデビュー。11年よりソロプロジェクト TTREをスタート。RAG FAIR、 ズボンドズボン、TTRE楽曲の多くの作詞作曲を手掛ける。音楽活動以外にも、執筆やラジオなど多方面で活躍中。レギュラーに『赤江珠緒たまむすび』(TBSラジオ)など。