がんばることの“ガソリン”=やる気。いつか尽きてしまうエネルギーを糧に目標(ゴール)に立ち向かうのは無謀⁉/がんばらない戦略⑦

暮らし

公開日:2021/4/21

がんばらない戦略』から冒頭部分を全7回連載でお届けします。今回は第7回です。がむしゃらに働く人生から脱却し本当に必要な努力に注力できる自分に変われる新時代の人生戦略の指南書が登場! これからの時代に大切なのは「がんばらない努力」を身につけること。子供の頃からやる気だけは人一倍だったのに、何をやっても結果が出なかった著者。しかし、ある日を境に人生が大きく変わった――。

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がんばらない戦略
『がんばらない戦略 99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する方法』(川下和彦、たむらようこ/アスコム)

STAGE4 歯の真っ白なヨットマン

 ミサキは公園を出て、また歩き出しました。

 相変わらず行くあてもありませんが、気持ちのいい風が吹いていました。

 顔に風が当たるのが気持ちよくて、わけもなく風に向かって進むことってありませんか?

 まぁ、あんまりありませんかね。

 ミサキが風に向かって歩いていると、細い路地がパッと開けて港に出ました。

「海なんか久しぶりに見たな~」

がんばらない戦略

 ミサキが潮風を深呼吸していると、遠くから船が向かってきます。

「?」

 船がなんだかまっすぐ自分の方へ向かっているような気がして気味が悪くなりました。

 それで場所を変えようと、ミサキは左の方向へ少し歩きました。

 でも船はまっすぐ向かってきます、ミサキめがけて。

 ミサキがもっと左へ走っていくと、船も舳先をミサキの方へ向けるのです。

「なに、なに、なにー???」

 ミサキがあたふたしているうちに、船は近づきミサキの前に停まりました。

 ヨットです。

「やぁ!」

 ヨットの中から、よく日に焼けた、やたらと歯の白い、おじいさんが顔を出しました。

 誰に似てるって休日のサンタクロースって感じ。

「君はガンバール国からきたんだね」

「いきなりー? なんでわかるんですか」

「肩に力が入ってる。気の毒だ」

「そんなのわかるんですか」

「わかるとも。肩に力を入れて生きているのは疲れるぞ。おじさんが、ガンバらない方法を教えてやろう」

「早速、本題なんですね!」

「ものごとには大人の事情というものがあるんだ。この場合は……文字数だ」

「聞かなかったことにします」

 歯の白いヨットマンは甲板に立つと、船のヘリに片足を上げかっこいいポーズをキメます。

 もちろん手はアゴで。

「では教えよう。ガンバらないで生きる方法」

「お願いします」

「必ず尽きるガソリンで走るな」

 歯の白いヨットマン、キメ顔です。

 でもミサキにはまったくわかりません。

「どゆこと? ですか」

「だーかーらーっ」

 歯の白いヨットマンはミサキの方に向き直って説明をはじめます。

「これは物のたとえなのっ。ガンバろうとする力、それは船でいうとエンジンだ。ガソリンがなくなれば止まってしまうだろう。それに比べてヨットはどうだ。風があればどこまでも行ける」

「でも風がないときは?」

「お休みだ」

「そんなんでいいんですか?」

「ああ、いいんだ。ガンバってしまうと絶対に目標にたどり着かない。

 たとえばだ。君がこの港からニューヨークへ海を渡るとする。

 これは大きな目標に向かっていくというたとえだ。やる気というガソリンをいっぱい積んで港を出る。最初はグングン進む。でも、いつかやる気が尽きれば海の真ん中で止まってしまう。これが必ず尽きるガソリンで走るなってこと。わかるかな?」

「はい、そこまではなんとなく」

「でもヨットならどうだ。そもそもやる気というガソリンなど積んでいない。

 ただニューヨークというゴールと、風を受ける帆があるだけだ。

 風がある日は進む、風がなくなれば休む、風が吹けばまた進む。

 こうしていればいつかは大きなゴールへたどり着けるだろう」

「え? 食料はどうするんですか?」

「そういう細かいこと言い出す人? まぁ、いっぱい積んであることにして。

 それか途中でどっかの港に寄るとかさ。そういう設定でいいじゃない。ね」

「はい、まぁたとえ、ってことですね。動力になる風はなんのたとえですか?」

「時間だよ。やる気というガソリンに頼って燃え尽きるよりは、時間という風に乗って少しずつ目標に近づく方が確実、ということをだね、おじさんは言いたいわけだ」

がんばらない戦略

「ガンバる気持ちはなぜ、そのうち尽きてしまう前提になってるんですか?」

「だってほら、ガンバってるってことは、どこかに少し、重い腰を上げてる、自分を奮い立たせてる、ちょっとイヤイヤやってるニュアンスが含まれるじゃない?

 イヤイヤながらにゴール目指したらゴールに失礼だと思うよ」

「ゴールに失礼、ですかー。そんなこと考えたこともなかったなぁ~」

 ミサキは腕を組み、ゆっくりと歩き出しました。

「たしかにガンバろうと思ってる時点で、ちょっと苦手意識だったり、自分に無理してるところはあるよなぁ~。意識して“やる”より、意識しなくても“できてる”ときの方が、なんかうまくいくもんなぁ~。毎朝の歯磨きだって別にガンバってるわけじゃないから続くんだよね~、あれ? ってことは無意識にカラダが動くようになればガンバらなくても、うまくいくってことか~。いや待てよ、その無意識にまで持っていくのが大変なんだよ。

 だってやり方がわからないし~」

 ミサキはブツブツと言いながらもときた道を戻っていきました。

 やたら歯の白いおじいさんは、また船の上でかっこいいポーズをとり風に吹かれています。

 ミサキは「ありがとう」を言うことも忘れて夢中で考えていました。

 目標に向かって、無意識に行動できるようになるにはどうしたらいいのか。

 おじいさんはそんなミサキの様子が、ちょっとうれしくてかっこいいポーズのまま「ふっ」と小さな笑顔を見せていました。

 そんなおじいさんのかっこよさに世界中の誰一人気づいてはいないけれど。

<続きは本書でお楽しみください>