「肺を鍛える」とはどういうこと? 筋肉を柔軟に動かすことが大事/最高の体調を引き出す超肺活⑤

健康・美容

公開日:2021/5/30

最高の体調を引き出す超肺活』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第5回です。新型コロナウイルスで、もっともダメージを受ける臓器・肺。これまで注目を集める機会がなかった肺にこそ、最高の体調を引き出す力が秘められています。自律神経研究の第一人者が、肺の重要性を徹底解説!

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最高の体調を引き出す超肺活
『最高の体調を引き出す超肺活』(小林弘幸:著、末武信宏:監修/アスコム)

「肺が衰える」ことで起きる病気と不調

 ここで、肺の機能が低下すると、どんな病気のリスクが高まるのかまとめておきましょう。

 肺の機能が低下すると、COPDになる可能性があります。肺胞が壊れて酸素を血液に取り込めなくなるため、重症化すると酸素ボンベが手放せない疾患です。肺の免疫力が下がるため、肺炎が発症して命の危険にさらされる可能性が高まります。

 COPDまでいかずとも、肺の機能が衰えると免疫力が下がり、ウイルスや細菌による肺炎のリスクが高まります。高齢者に増えている誤嚥性肺炎についても、肺の機能が衰えていることが発症の一因です。

 

 このような、肺そのものの病気のみならず、肺の衰えは全身の健康状態を悪化させます。血液中の酸素濃度が低いと、脳は心臓に負担をかけて血液量を増やそうとします。その結果、心臓や血管に過度の負担がかかり、心臓の病気や血管の病気を発症させる危険性があります。

 新型コロナウイルス感染症にはさまざまな部位に後遺症が起こることが指摘されていますが、それもそのはずです。肺がダメージを受けるということは、血液が流れる場所、すなわち全身の細胞すべてになんらかの影響を与える可能性があるということです。

 

その不調、肺の衰えが原因かも

 たとえば、冷え性や肌荒れなどの症状に悩まされている人は、毛細血管のすみずみまで酸素が届いておらず、細胞にエネルギーが足りていない可能性があります。

 また、慢性疲労を抱えている人は、脳が酸素不足、血流不足に陥り、疲労物質がたまっている可能性があります。

 病院に行くほどでもない「不調」は、じつは肺の機能が衰え、酸素を充分に血液に取り込めていないことが原因というケースが非常に多いです。しかし、こういった不調を放置していると、取り返しのつかない病気が発症する危険性があるので注意が必要です。

 さらに、肺が衰えると、知らず知らずのうちに「浅い呼吸」になります。浅い呼吸は自律神経のバランスを崩すため、さまざまなメンタルトラブル、内臓トラブル、血管トラブルを引き起こすリスクを高めます。自律神経のバランスを整えるという観点からも、肺を鍛えることは非常に重要になってきます。

 詳しくは第2章で解説しますが、自律神経は全身の免疫力と深い関わりがあるため、肺が弱り自律神経のバランスが乱れていると、免疫力の低下を招きます。あらゆる感染症をブロックするためにも、肺の機能低下を放置してはなりません。

 

 このように、肺をおざなりにしていると、健康状態は日に日に悪化してしまうのです。このことを念頭に置き、一刻も早く肺を鍛える必要があります。

「肺を鍛える」とはどういうことか?

 しかし、残念ながら「肺そのもの」を鍛えることはできません。

 繰り返しますが、一度壊れてしまった肺胞は、現代医学では再生できないのです。

「肺を鍛える」とは、いまある肺胞を最大限に活用して、血液に酸素を取り込む量を最大化させることを指します。肺胞の数や機能が同じでも、呼吸の質を変えれば、血液に酸素を取り込む量を増やすことができるのです。

 

 このことをご理解いただくために、私たちが普段どのようにして呼吸をしているか、機能解剖学と運動生理学の視点からひもといてみます。

 

 肺は、胸郭と呼ばれる、胸骨、肋骨、胸椎(背骨)に囲まれたカゴ状の骨格の中に心臓とともに収まっています。

 肺そのものには膨らんだりしぼんだりする機能はありません。

 胸郭を取り巻いているさまざまな「呼吸筋」と呼ばれる筋肉が動くことで、胸郭が拡張や収縮をし、その動きに連動して肺も膨張や収縮ができています。

 呼吸筋には、斜角筋、肋間筋、前鋸筋、脊柱起立筋、横隔膜などがあります。

 斜角筋は胸郭の上側、肋間筋は胸郭の前面から横面、前鋸筋は胸郭の横面、脊柱起立筋は胸郭の後面についていて、それぞれ胸郭が拡張する動きをサポートしています。

 横隔膜は、胸郭の底にある、胸とお腹を隔てている筋肉の膜です。

 これらの筋肉が柔軟に動くと、胸郭の可動域が広がり、肺の中にたくさんの空気を入れることができるようになります。

 

肺を鍛える=呼吸筋の柔軟性を高めること

 息を吸うとき、胸郭の呼吸筋は伸び、横隔膜は縮んで下方向に下がります。すると、肺は横隔膜に引っ張られて膨らみ、膨らんだ肺の中に空気が入っていきます。

 息を吐くときは、胸郭の呼吸筋が縮み、横隔膜は伸びて上方向に上がります。すると、肺は横隔膜に押し上げられて小さくなり、肺の中の空気は外に押し出されます。

 このように、肺は、横隔膜などの呼吸筋が収縮することによって空気を取り込んだり吐き出したりしているのです。

 

「肺を鍛える」とは、呼吸筋の柔軟性を高めて、スムーズに胸郭が拡張するようにすることを意味します。

 胸郭の動きがスムーズになると、ゆっくりと深い呼吸ができるようになります。

 すると、肺胞から取り込める酸素量を増やすことができるのです。

<続きは本書でお楽しみください>