益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ!表題作「小さいわたし」/小さいわたし⑤

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/17

子ども時代を、子ども目線でえがく。益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ『小さいわたし』。幼い頃、胸に抱いた繊細な気持ちを、丁寧に、みずみずしくつづります。「入学式に行きたくない」「線香花火」「キンモクセイ」「サンタさんの家」など、四季を感じるエピソードも収録。かけがえのない一瞬を切り取った、宝物のような春夏秋冬。38点の描き下ろしカラーイラストも掲載!

小さいわたし
小さいわたし』(益田ミリ/ポプラ社)

小さいわたし

 アリが一列になって歩いていた。

 なにかを運んでいるアリもいるし、なんにも運んでいないアリもいる。みんなちょっと急いでいるようだった。これから家に帰るのかもしれない。

 遠くの家に帰らなくてもいいように、アリの国を作ってあげようよ。

 いっしょにアリを見ていた子とアリの国を作ることにした。

 まずは囲い。大きな虫が入って来るときけんだから小石で囲いを作った。

「雨が降ったときのおうちもいるね」

「石でつくろう!」

 石をもっともっと集めておうちを作った。これで雨が降っても大丈夫だ。

「お花畑もいるんじゃない?」

「公園で草をとってこよう」

 シロツメクサやタンポポを囲いの中に置いた。

 アリの国ができた。

 葉っぱにアリを一匹ずつ乗せ、アリの国に入れていった。みんな囲いの中をうろうろしていた。はじめての場所だからびっくりしているみたいだった。

「あっ、そうだ! 池もいるんじゃない? のどがかわくから」

 わたしは言った。

 穴を掘って公園の水道水を入れた。水は地面にしみて消えていった。

 もっと入れた。

 またしみた。

 もっともっと入れたら少し水がたまったけれど、やっぱり土にしみた。地面はどろだらけになってしまい、アリたちはうろうろしていた。

 アリの国のアリたちをじーっと見ていたら、わたしはヘンな気持ちになってきた。わたしがアリを見ているみたいに、すごく大きな人がわたしのことを上から見ているのかもしれない。

 しゃがんだまま上を見たけれど、大きな人は見えなかった。

小さいわたし

<第6回に続く>

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益田ミリ(ますだ みり)/1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書にエッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)他、絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。