天才的な知能を手に入れた主人公の葛藤と苦しみ…。累計発行部数 336万部以上の感動作『アルジャーノンに花束を』

文芸・カルチャー

公開日:2022/7/28

ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした『アルジャーノンに花束を〔新版〕』(ダニエル・キイス:著、小尾芙佐:訳/早川書房)の書籍要約をお届けします。

この本を読んで欲しいのはこんな人!

・自分は「人と違うかもしれない…」と悩んでいる人

・日常生活が上手く行かないと思い詰めている人

・子育てや教育に悩んでいる親世代

3つのポイント

要点1:幼児並みの知能だった主人公のチャーリイ・ゴードンは大学の実験に参加した

要点2:才能が開花する一方で、次第にチャーリイは蘇る記憶に苦しめられることになった

要点3:やがて月日が経過し、チャーリイは、自分自身の人生を悟った

(著者プロフィール)
ダニエル・キイス/1927年ニューヨーク生まれ。ブルックリン・カレッジで心理学を学び、雑誌編集の仕事などを経て英語教師となる。併せて、小説を書きはじめ、1959年に発表した中篇『アルジャーノンに花束を』でヒューゴー賞を獲得。長編化した際にネビュラ賞を獲得後、世界的ベストセラーに。以降、オハイオ大学で英語学と創作を教えるかたわら執筆活動を続け『五番目のサリー』『24人のビリー・ミリガン』(いずれも早川書房)など話題作が相次いだ。2014年6月没。享年86。

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競争相手は白ネズミのアルジャーノン。実験に参加した主人公

 32歳になっても幼児並みの知能しかなかったドナー・ベイカリーの店員、チャーリイ・ゴードン。物語は、3月3日からはじまる彼の手記「経過報告」をたどりながら展開していく。

 ピークマン大学の精神科医、脳外科医であるジェイ・ストラウス博士らに呼ばれたチャーリイは、自身の「あたまをよくしてくれる」という実験への参加を決意。「かしこくしてくれるならかしこくなりたいのです」と、切実な思いを手記に込めるチャーリイは、自身の過去について「ぼくのお母さんにもお父さんにも小さい妹のノーマにもずーとずーとあってない」と回想した。

 白ネズミのアルジャーノンを競争相手にした実験を受けるため、大学へ通い続けていたチャーリイ。3月8日が過ぎ、彼は手術を受けた。

 1週間後の3月15日、退院した彼はピークマン大学の知的障害成人センターの教師、アリス・キニアン先生に「いつぼくの頭はよくなるのですか」と聞く。彼の質問に「あなたは心ぼー(※辛抱)しなければいけないわ」と返すキニアン先生。その答えを聞いたチャーリイは、アルジャーノンとの実験を振り返り「れーすやてすとはばっからしいし、こんな経過報告をかくのだってばっからしいとおもう」と思いを巡らせた。

自分が「少しずつりこう」に。蘇る記憶への葛藤

 手術後にあらわれた、チャーリイの変化が内容に反映される本書。小説内では、ひらがなを中心に書かれていた彼の文章に、徐々に漢字が目立つようになる。

 3月24日、ピークマン大学の心理学部長、ハロルド・ニーマー教授は「なぜきめられたとおりに研究室へこないのか」とチャーリイへ尋ねる。「アルジャーノンときょーそーするのはもういやだ」とつぶやくチャーリイ。彼は葛藤を抱えていた。

 日は経ち、4月13日。チャーリイは手記に「自分が毎日少しずつりこうになっていくのがわかる」とつづった。「句読点も知っているし、字もまちがえなくなった。むずかしい言葉は辞書でひいて覚える」と成長を実感。しかし、同時に「チャーリイ! チャーリイ!……うすのろ、間抜け!」と子どもたちに罵倒された過去がフラッシュバックしはじめていた。

 4月28日、チャーリイは夢を見た。「この子は正常よ! 正常です! 他の子供たちのように成長するはずです。他の子よりりっぱに」と、母親が彼のはじめて通った小学校の先生に詰め寄り父親がひきとめる情景が頭に浮かんできた。しかし、情景こそ浮かぶが両親の顔はよく思い出せない。チャーリイは「彼らの顔がもっとはっきり見えたらと思う」とつづった。

 蘇る記憶、込み上げる感情に苦しむチャーリイ。5月25日、好意を寄せるキニアン先生にチャーリイは「きみが……きみがしてくれ! ぼくを抱いて!」と懇願した。しかし、「ワーンという音、悪寒、吐き気」にもだえ、みずから体を放してしまうチャーリイ。その夜はただ、「恥ずかしさと苦痛」にさいなまれ、キニアン先生の腕の中で泣き疲れて眠るしかなかった。

手記に込められた思い

 6月13日、チャーリイは学会で科学者たちの好奇の目にさらされていた。学会の壇上で「われわれの新しい技術が優秀な人間を創造したことに深い満足をおぼえております」と言い放つニーマー教授。その一言を受けて、チャーリイは「私が彼ら個人の宝物として新たに創造されたものと思い込ませることに、なぜこれほどの憤りを感じるのかわからない」と思いを巡らせた。

 日が経ち、ピークマン大学の心理学研究室には、チャーリイを待つニーマー教授たちがいた。彼と同じ実験を受けたアルジャーノンもそこにいたが、チャーリイが研究室で見つけたものについて、実験用動物の「冷凍庫と焼却炉だ」と説明するニーマー教授。自身も同じ末路をたどると思ったのか、ニーマー教授に対して「アルジャーノンはやめてくれ」と懇願するチャーリイは「たったいま実験動物を処理する焼却炉を見せてもらいましたが。ぼくについては、どんな方法をとるおつもりですか?」と尋ねた――。

 そしてチャーリイはまた変わっていく……。

文=カネコシュウヘイ

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