編集者になるには? 現役編集者の失敗から学ぶ成功への近道

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/26

「活字離れ」や「出版不況」と言われているにも関わらず、就職ランキングの上位を賑わせている出版社の存在――編集者という職業は、なぜなおも魅力的なのでしょうか? その人気ぶりからも分かるように出版社に入社して編集者になることは狭き門であり、競争率は非常に高いのが現実です。

この記事では編集者を目指す人に向けて、現役の編集者たちの失敗や遠回りから学ぶ編集者への近道をお伝えします。

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目次

  • 編集者になるには? 知っておくべき基本
  • 編集者への第一歩。失敗からの学び
  • 編集者に求められる能力と資質
  • 編集者の仕事内容とやりがい
  • 編集者を目指す学生の近道に! 編集者講座

編集者になるには? 知っておくべき基本

 編集者を目指す皆さんはまず出版社への就職活動を考えると思います。出版社の採用方法は大きく分けて以下の形に分類されます。

・新卒定期採用
 KADOKAWAをはじめとして、大手総合出版社は毎年新卒採用を行っています。ただ、大手出版社といえども新卒採用の枠は各社10~30人ほどで、他の業界に比べると募集人数は圧倒的に少ないです。そこに数千人規模の応募があるため、新卒入社は最も王道の方法に見えて、実はかなりの狭き門だといえます。
 ちなみに毎年新卒採用を行っている出版社の採用ページは趣向を凝らしているものが多く、過去の採用ページが残っている場合もありますので一度覗いてみると良いかもしれません。出版社ごとに採用のテーマが様々で、求められている人物像をつかむ参考になると思います。

・中途採用
 大手以外の中小出版社は定期的な新卒採用を行っていないことがほとんどです。そういった出版社に入社するには、不定期に募集される中途採用の求人への応募が必要になります。
 中途採用の応募条件では編集経験が求められることが多いですが、未経験者や新卒でも応募できる場合がありますので各求人の条件はしっかり確認してみましょう。
実際、他業種から転職してきた編集者もたくさんいます。

・アルバイト・学生インターンシップ
 こちらも不定期かつ求人数も少ないですが、出版社がアルバイトや大学生のインターンを募集している場合もあります。社員とは違う立場での業務になりますが、編集という仕事を身近で学べる機会ですので求人を見つけたら迷わず応募してみてください。
 アルバイトやインターンシップの経験は上記の中途採用に応募する際に「編集経験あり」と履歴書に書くこともできますし、仕事ぶりを評価されれば社員登用の話がもらえるかもしれません。ただ、その場合もきちんと採用試験を受けなければならない場合がほとんどです。

 上記はあくまで出版社の入社方法の紹介になります。出版社のほかにも、出版社の代理で編集業務を行う編集プロダクションという会社もありますし、他業界でも広報誌を作る部署などがあればそこで編集業務を行うことが可能です。本気で編集者を目指すなら出版社だけにこだわらず、様々な求人情報をチェックしてみることをおすすめします。

編集者への第一歩。失敗からの学び

 それでは現役の編集者たちはどのような形で就職活動を乗り越えたのでしょうか?
もちろん彼らも就職活動中に遠回りや失敗を重ねた経験を持っています。まずは、編集者たち自身が「学生時代に知りたかった」「就職活動をする際に知っておきたかった」という内容をできる限り伝えていければと思います。

成功への近道! 先輩編集者の失敗談

・出版社の就職活動という特殊性
 出版社への就職活動を通じて痛感したことは、選考過程で聞かれる質問が他業種の選考と全く違うということです。自己PRや志望動機はともかく、どの出版社でも事前に全く想定していなかった質問が雑談のような形でとにかく矢継ぎ早に飛んできました。ESに書いていないジャンルの話題を突然振られたり、好きなコンテンツの炎上対策を求められたりすることもありました。
 また、ESの質問や作文、筆記試験も王道なものではなくひねったものが多いので、どう答えるのが正解なのか最後までわからなかったなんてことも。
 

・企業研究&志望動機の難しさ
 皆さんは出版社の名前で本を選ぶことはありますか? ほとんどの人は作者など別の要素で読む本を決めているのではないでしょうか。しかし、就職活動となるとこれが大きな問題になってきます。いざ企業研究をしようにも好きな作家、作品以外に出版社について語れることが何もない。作品名は知っていてもそのレーベル、掲載誌がわからず面接で答えられなかったり、好きな本について語っていたら他社刊行の本だったなんて失敗談もありました。 

 上記はあくまで一例ですが、出版社の選考はいわゆる一般的な就活本などに書かれている傾向と対策が通用しない特殊なものになっています。
 今にして思えば、雑談のような面接の質問も、次の項で説明する「編集者の資質」を見極めるものであったとわかるのですが、学生のときはなにもわからず戸惑うばかりでした。

編集者に求められる能力と資質

 さて、出版社が選考の際に意識する編集者に向いている人の特徴や、必要なスキルとはいったいなんなのでしょうか?

 編集者になるために必要な資格というものは特にありません。出身大学や学部による有利不利も他の業種に比べると少ないと思われます。一般的に編集者は文学部系の出身が多いとは思いますが、理系学部出身の編集者も珍しくありません。

 また、文章力や取材力、プレゼン力など、編集者という仕事をするうえで必要なスキルはいろいろありますが、その中で最も重要なのは「企画力」だと思います。

編集者に必要な能力、それは「企画力」

 編集者の仕事は企画を作ることから始まります。企画が出せないとその編集者に仕事はありません。逆に言えば、企画さえ出せれば新人編集者でも書籍を作れるということです。
 では企画とはなんなのでしょう。「○○先生の新作を作りたい」、「人々に夢を与える書籍を作りたい」といったことを編集志望の人がESで書いているのをよく見ますが、これは企画ではありません。
 企画とは「誰(著者)に、何(テーマ)を、誰(ターゲット)に向けて、何のために書いてもらうか」まで考えてつくるものです。その作品を世に出す意義、売れる根拠を用意してこそ「良い企画」といえるのです。

 とはいっても、いきなり良い企画を作れというのはハードルが高く感じてしまうかもしれません。そもそも企画力を上げるためにはどうすればいいのでしょうか。
 企画力を養う方法はいろいろあるかと思いますが、個人的には日々の様々な物事を分析してみる習慣をつけてみることをおすすめします。
 例えばいま話題になっているもの、売れているものについてその理由を考えてみてください。読み終わった本の感想が「面白かった」なら、なぜその本が面白かったのか他人にも伝わるように具体的に説明してみてください。
 最初は的外れな考察になってしまうかもしれません。それでも理由を考えて言葉にしてみることを意識し続ければ、なんとなく売れそうなもの、話題になりそうなものの判断基準が自分の中に生まれてくるはずです。
 そういった日々の分析の積み重ねが良い企画を生み出す原動力になっていくのだと思います。

編集者ならではの「コミュ力」とは?

「やっぱりコミュニケーション能力がないと編集者にはなれませんか?」とよく聞かれることがあります。
 これは断言できます。編集者にコミュニケーション能力は必要です。

 編集者とは書籍に関わる様々な人をつなげる仕事です。そうなると必然的に多くの人とのコミュニケーションが求められます。常に同じ人とだけ仕事をするわけではなく、企画のためには面識のない作家にも執筆のお願いをしなければなりませんし、デザイナーやイラストレーターも作品の雰囲気に合わせて毎回違う方にお願いする必要があります。

 とはいえ、パリピ系や体育会系のような「コミュ強」な人が編集者に求められているわけではありません。
 これは完全に偏見ですが、他業種に比べて編集者は人見知りでおとなしい、いわゆる根暗な人の割合がかなり多いような気がします。

 では、編集者に求められるコミュニケーション能力とはいったい何なのでしょう?
それは「多くの人を巻き込み、動かしていく力」だと思います。
 こう書くとまたとんでもなく高いハードルを求められているように感じてしまうかも知れませんが、決して難しい要求ではないはずです。
「企画に対しての熱意」、「相手に寄り添う姿勢」、「同じ趣味の話で盛り上がれる」、「たまにするドジという愛嬌」、何でもいいのです。「この人とだったら仕事してもいい」と相手に思ってもらえる何かがあれば口下手であろうと編集者としてのコミュニケーション能力としては満点です。

編集者に向いている人の特徴とは?

 また、編集者に向いている人の特徴として、「幅広い興味を持っている」、「様々なジャンルに精通している」、「広い視野を持っている」ということがあげられます。
 そのため、特定のジャンルだけに興味を持つのではなく、幅広いジャンルに普段から目を向けて欲しいと思います。興味の幅が広いと企画できる書籍のジャンルもその分増えることになります。
 そして、新たな企画を考えるうえで様々なジャンルに精通しているということは大きなメリットになりえます。
 例えば、既存のジャンルに別のジャンルの視点から新しい要素を加えるというのは企画を作る有効な方法のひとつです。
 幅広い視野を持った編集者であれば全く接点のなさそうな2つのジャンルを掛け合わせて全く新しいジャンルを創造することもできるかもしれません。
 一概には言えませんが、「狭く深く」より「広く浅く」の考え方の方が編集者向きかと思います。

編集者の仕事内容とやりがい

 ところで、編集者の仕事と聞いて皆さんはどんなイメージをお持ちですか?
「作家と喫茶店やファミレスで打ち合わせをしている」
「原稿の催促ばっかりしている」
「作家と取材旅行にでかけている」

 たしかに上記のように「作家と二人三脚で作品を作っていく」のも編集者の大事な仕事の一つです。
 ただ、編集者は作家とだけ仕事をするわけではありません。「コミュニケーション能力」の部分で少し触れましたが、書籍を1冊作って売るためには、作家、イラストレーター、写真家、デザイナー、校正、印刷所、営業、宣伝そして実際に店頭で本を販売してくださる書店員の方々など、様々な人たちの協力が必要です。

編集者の仕事内容とは?

 編集者はそんな書籍に関わる様々な人たちをつなげて1冊の書籍を作り上げるプロジェクトマネージャーのような仕事といえます。
 企画の立案にはじまり、関係者との打ち合わせ、仕事の発注、スケジュール管理など編集者の仕事内容は多岐にわたります。
 資料集めや取材のアポ取りといった裏方仕事も編集者の大事な仕事です。編集者とは書籍に関するプロジェクトマネージャーであり、スーパー雑用係でもあるのです。

そもそも編集者って必要? これから編集者が生き残るには

 よく「編集者がいなくても作家だけで書籍は作れるんじゃないの? 編集者って本当に必要?」という意見を聞きます。
 これはなかなか難しい質問で、現場編集者の立場からは言い出しにくいのですが、個人的には「編集者はいらない」っていう結論はありだと思っています。

 SNSで作品を発表するのが当たり前で同人市場もにぎわっている昨今、編集者を介さずに書籍を刊行することのハードルはとても低くなっています。その意味で編集者の必要性は昔に比べて薄くなっているのは事実です。
 作家がすでに大量の読者を抱えていて、デザインや販路などの書籍刊行に必要な要素を自分自身で賄うことができるのであれば、編集者や出版社を必要としない選択肢が出てくるのは当然だと思います。

 それではこれからの編集者・出版社の存在意義というのは何なのでしょうか?
 作家が書籍に関わるすべての作業を自分で賄えるならば編集者を使わない選択肢もありということは、逆に考えると創作活動以外の諸々の作業を編集者に任せる選択肢もありということになります。

 なぜなら、編集者は書籍出版に関わる様々な人をつなぐ仕事だからです。それはつまり編集者は書籍を作るために必要な各分野のプロフェッショナルたちとのコネクションを持っているということになります。
 この強みを生かすことによって、編集者は作家・著者に創作活動のみに専念できる環境を提供するビジネスパートナーとしての選択肢を提供することができると思っています。

 また編集者なら、作家が作りたいと思っているテーマ、ジャンルを市場や作家性などを見極めてさらに良くする方法を提案したり、作家の原稿の進み具合や体調などを考慮しながら刊行スケジュールを調整し、時には気分転換の相談に乗ったりといった、(ちょっと大げさですが)コンサルタントやカウンセラーのような役割も担うことができます。
 作家にとっての編集者はマラソンにおける伴走者であり、ペースメーカーであり、先導車のような役割を果たしているとも考えられます。

 むしろこれからの編集者、出版社は作家の皆さんにどれだけの新しいサービス、役割を提供することができるのかが今後を生き残るカギになってくるのかもしれません。
その意味で編集者も時代の変化の影響を強く受けている仕事だと言えます。

やりがいとは何か? 編集者の仕事から見える喜び

 それでは、編集者はどういったところに自身の仕事のやりがいを感じているのでしょうか?
 もちろん仕事のやりがいは人それぞれですが、その中でも編集者ならではのやりがいをいくつかプレゼンさせていただければと思います。

・企画さえ通ればどんなジャンルの書籍も作れる
 出版社や編集部によってある程度扱えるジャンルの範囲は決まっていますが、企画さえ通すことができればどんな書籍も作れるというのはやはり楽しいです。
自分の趣味も、書籍の企画にすることさえできればそのまま仕事にしてしまうことも可能です。
 それに、企画と名刺さえあればどんな有名人にも会いにいくことができるというのも、仕事をする上でのモチベーションになっています。

・新しいコンテンツを生み出すという誇り
 編集者という仕事は0から1を生み出す仕事といえます。自分発の企画で世間の話題を作り出せた時の喜びはひとしおです。
 次はどんなものが流行るのか、いち早く情報を察知して新しいムーブメントを引き起こしていく。そんなことも編集者なら仕事にできるのです。

・作家といっしょに喜びを分かち合える
 作家に寄り添い、ともに作品を作り上げることの達成感も編集者なら味わえます。
読者からの「この本を宝物にします」や「感動して泣きました」との感想に作家といっしょに喜びを分かち合ったり、初めてのジャンルやテーマに挑戦していただいたときに、「あの時背中を押しながら、一緒に作ってくれたのを忘れません」とか「自分の作品に自信が持てました」などの言葉を、後日作家から掛けてもらえたり、といった編集者冥利に尽きるようなエピソードも。

・ルーティーンがない、毎日が新しい仕事
 編集者には毎日決められた仕事が与えられるわけではありません。企画のたびに一緒に仕事をする人は変わりますし、常に企画を探して新しい分野にチャレンジしていくことも求められます。常に新鮮な気持ちで仕事ができるというのは編集者ならではの醍醐味なのかもしれません。

 このように、編集者は大変なことも多いですが、非常に多くのやりがいを感じられる仕事でもあるのです。

編集者を目指す学生の近道に! 編集者講座

 さて、ここまで読んでくださった皆さんに向けて最後に一つ宣伝をさせていただければと思います。
 KADOKAWAでは、22年度、23年度と2回にわたり編集者を目指す学生にむけて、現役編集者が自身の仕事術や就活体験を伝える「小説・エッセイ編集者講座」を開いてきました。

 この講座は、KADOKAWAの編集者たち自身が就職活動で遠回りをした経験を元に、自ら企画しています。「学生時代にこんな講座があったらよかった」という情報やアドバイスをたっぷり詰め込みました。

 現役編集者が講師だからこその充実したプログラムで、就活生が一番気になるES、面接対策も手厚く対応。大手出版社の内定をもらった受講生も複数輩出という目に見える実績も残してきました。



講座では、編集者が学生時代に作った就活ノートも公開

 そして、このたびおかげさまで第3期を開催する運びとなりました。
 第3期ではいままでの小説、エッセイの編集だけでなく漫画編集者を目指す学生に向けた講義も用意する予定です。また、先着100名様を対象に無料の体験講座も実施します。編集者への近道として、少しでも皆さんの助けになればこのうえなく嬉しいです。

 この記事を読んで「やっぱり編集者になりたい」と思った皆さん、もしよければ本講座を受講いただければと思います。

「小説・エッセイ編集者講座」の詳細はこちら

●出版社志望の就活生を応援したい現役編集者の会
KADOKAWAで普段は文芸編集者として働いている若手~中堅社員が中心となって結成されたプロジェクトチーム。「自分たちが就活生だった時にこんな講座が欲しかった」との思いから就活生に向けた「小説・エッセイ編集者講座」を開講・運営している。