仕事、育児、恋愛……逆境に立ち向かう女たちの本18選

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/8

“もう、ダメかも”と思ったとき、人は輝き出すことがある。
世界から放り出されたような孤独を感じ、考えこんでしまうことがある。
逆境は、つらさ、苦しさだけでなく、人生に豊かさももたらしていく。
ヒロインが立つ、それぞれの崖っぷちで、彼女たちはいかに困難を乗り越え、
何を得たのか。そこに厄介な社会を生き抜くヒントが隠れている。
※本企画はダ・ヴィンチ2019年3月号の転載記事です

advertisement

文:河村道子

仕事、育児、恋愛……逆境に立ち向かう女たちの本18選

“自分は自由だ”という実感は困難のご褒美

『ワーカーズ・ダイジェスト』
津村記久子 集英社文庫

ままならない毎日を突き進んでいく力になる度★★★
10年付き合った恋人と別れ、誰かに何かを伝えたい衝動をコントロールできないでいる、デザイン会社で働く32 歳の奈加子。職場の人間関係や仕事での理不尽に振り回され、肉体的にも精神的にもまるで厄年。そんな日々がいつ終わるかもわからずに続いていく。けれど日常のなかにささくれ立つ棘を抜くものもまた日常のなかに存在している。

“母になる”ことは、自分自身の怖れを克服すること

『貘の耳たぶ』
芦沢 央 幻冬舎文庫

日常にひそむ“こうあるべき” の物差しをへし折ってくれる度★★★★
母になる恐怖と帝王切開術後の痛みのなか、新生児室で我が子より大きく生まれた子を咄嗟に“取り替えて”しまう繭子。彼女を追い詰めたのは、「自然分娩じゃなくて残念」、あなたは母親失格と、無責任にダメ出しをする周囲の物差し。罪に怯えつつも、必死に子育てをする彼女が自身の恐れを克服していくさまに目を見張る。

他者からの温かさを受け取る尊さを得る

雪と珊瑚と
梨木香歩 角川文庫

ひとりで抱え込んでしまいがちな同僚にそっと手渡したい度★★★★
生まれたばかりの赤ん坊を抱えてシングルマザーとなり、途方にくれる珊瑚。他人にはけっして頼らないと決めて生きてきた彼女が対峙していくのは、その考えに凝り固まった自分。やがて総菜カフェをオープンし、奮闘するヒロインは周囲の人々の態度や言葉を通し、自身を育てる可能性を見つけていく。

悲しみや苦しみを分解していったところにあるもの

『ビオレタ』
寺地はるな ポプラ文庫

失恋の痛手に浸っていると気付いたときに救いになる度★★★
「必要とされていないのがつらい」婚約者から別れを告げられた悲しみの源はそこにあったと知る妙。彼女は道端で大泣きしていたところを拾ってくれた女主人が営む“棺桶”なる箱を売る雑貨屋で働いている。そこで出会う人々や家族から得る人生の知。一人前になる時期は人それぞれ。茨の道で気付いたときがその好機。

目を逸らし続けているものに活路はあるかも

『大人になったら、』
畑野智美 中央公論新社

結婚、出産、昇進という呪縛から抜け出すきっかけになる度★★
35歳、カフェで副店長をしているメイ。恋人がいたので結婚したい、子供も産みたいと思っていたけれど、高校時代から付き合っていた彼と別れ、そんな気持ちも失った。仕事の昇進試験からも目を逸らしている彼女の日々に色が戻ってきたのは――。痛みを感じない逆境は泥沼化していくが、一歩、進むことで何かが変わる。

思春期の残像=あの残酷さに対し“今”できること

『自画像』
朝比奈あすか 双葉文庫

心に巣食う過去のトラウマと向き合う力になる度★★★★
男子が作った女子ランキング。美醜のジャッジに傷つき、自意識が衝突し合う。ある少女に対し、卑劣な方法でなされた“魂の殺人”。容姿ヒエラルキーの下層にいた語り手・清子も、けっして消えることのない心の傷が残った。ゆえにかつての少女たちは“裁き”を実行した――。理不尽な過去は今、“正して”いくことだってできる。

VSブラック上司! 自分の大切なものをいかに守るか

『わたし、定時で帰ります。』
朱野帰子 新潮文庫

「残業=やる気」と決めつける上司のデスクにしのばせたい度★★★★★
ある理由から、絶対に残業をしないと決めている会社員の結衣。時に批判を受けても、毅然としていた彼女の前に、無茶な仕事を振って部下を潰すという噂の上司が現れ、難題を孕むプロジェクトのチーフを引き受けることに。次々とブラックな魔の手が結衣を襲うが――。解決策は絶対にある。ぶれない勇気と信念は扉を開ける。

巨大な敵とだって戦える。小さな人間の持つ強さ

『風は西から』
村山由佳 幻冬舎

会社、社会の“理不尽”の前で、背中を押してくれる度★★★★
過労自死をした恋人。それを止められなかった自分を責める千秋。彼の自殺は“労災”ではないのか? その真相を突き止めることこそが、今の自分にできることだと、千秋はブラック企業との戦いを決意する――。大企業との壮絶な闘いからは、この動かし難い世の中を動かしていく人間の秘めた強靭さが見えてくる。

停滞したときは、広く、長いスパンで人生を見つめる

『ミチルさん、今日も上機嫌』
原田ひ香 集英社文庫

立ち止まった歩を進めたいとき、読みたい度★★★
45歳、職ナシ、バツイチ、彼氏ナシ。あたし、これからどうするんだろう。いたって前向きだけど、若くてチヤホヤされたバブルの頃が忘れられないミチルは、どこか時代の波についていけない。自分のことだけしか見ていなかった彼女が陥ってしまったのは――。曇りのない目で周りを見る。そこに好転のヒントが落ちている。

“解決”なんかしない。けれど着地点はきっと見つかる

『甘いお菓子は食べません』
田中兆子 新潮文庫

どうにもならないことに悩む自分とさよならする勇気をもらえる度★★★★★
どんなに頑張ろうと思っても若さは去った。「僕はもうセックスしたくないんだ」と仲の良い夫から告げられた女。50 代を目前にリストラされた女。“母になりたい”と思っていたのに叶わないことを実感する女……。中途半端な40 代を生きる女たちは、もがきながら人生と折り合いをつけていく。潔さ、それもまた力なり。

バッサリ斬って、痛快に解決!

『最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室』
林 真理子 文春文庫

十人十色の悩みを蹴散らしてくれる度★★
10年間付き合っている不倫相手に貸した300万円が戻ってこない、学歴が高すぎてオトコに敬遠される、40歳を過ぎて結婚したい相手がやっと現れたのに両親が猛反対……。そんな相談ごとを傍若無人な物言いで解決していく52歳の女社長・中島ハルコ。腫物に触るときは勢いよく! 胸のすくような“その先”が開けてくる。

その怒りのエネルギーは、余裕へと昇華する

さしすせその女たち
椰月美智子 角川文庫

保育園へのお迎えを断った夫の枕元に置きたい度★★★★★
仕事と子育ての両立、その大変さは想像以上だった。部下への気配り、出世争い、2人の子供は手のかかる盛り。だが最強の敵は「仕事が忙しい」と何もしない夫。不満と怒りが募るなか、子供がけいれんを起こし……。ワンオペ育児に奔走するなか、自分のなかで自然と育っていたタフさ。主人公のギアチェンジに喝采!

日々の働きを止めないことが授けてくれるもの

『ミ・ト・ン』
小川 糸 幻冬舎文庫

困難に打ちひしがれ、何をすればいいのかわからないときに読みたい度★★★★★
深い森と湖に囲まれた国で生まれたマリカ。暮らしの糧と楽しみを与える自然、勤勉で善良な人々が伝えてきた知恵と手仕事。だが大国の占領に遭い、愛する人を捕虜にされ……。涙が流れても暮らしは滞りなく続いていく。日々の働き、手を動かすのを止めないことが、人に強さを与える。マリカの縫うミトンからそれが浮きあがってくる。

つらくても、批判されても、救いたいものがある

『いのちの花 捨てられた犬と猫の魂を花に変えた私たちの物語』
向井愛実 WAVE出版

自分の信じる道を突き進む勇気をもらえる度★★
人間の身勝手な理由で殺処分されている年間数十万頭の犬や猫。処分された骨がゴミとして扱われ、捨てられている事実を知り、女子高生たちは骨を土に混ぜ、花を咲かせることにした。肥料にするための骨を砕くつらい作業、骨を使うことへの周囲からの批判。でも自分たちは殺処分をゼロにしたい。純粋な願いの強さが響く。

病という青天の霹靂。そこで発見したギフト

『我がおっぱいに 未練なし』
川崎貴子 大和書房

不安を別のエネルギーに変えてくれる度★★★
“98%は本当に嫌。でも、残りの2%だけ実はワクワクしてる自分がいるの”。夫にそう告げて始まった闘病。名付けて“乳ガンプロジェクト”。右乳房全摘出という深刻な状態のなか、この局面がどんな新しい自分を連れてくるのか。スカッと気持ちのいい言葉で綴られる闘病記は生きる力の塊。そこでの気づきは人生の宝物だ。

介護という名のサバイバル。そこに必要なものとは?

『天国の一歩前』
土橋章宏 幻冬舎文庫

家族の老後、自分の将来に覚える不安を霧散してくれる度★★★★★
ひとり東京で暮らす女優の卵、21歳の未来の前に現れた、疎遠だった祖母。だが会うなり倒れた祖母は介護が必要な状態に。実家の親は祖母を見捨て、施設の空きもお金もない。自分にはバイトもレッスンもある。進んでいく祖母の症状……。把握しづらい介護システムに挑み、祖母とともに生きる術を探るヒロインが熱い!

いくど打ちのめされてもあきらめない美学

『砂漠の女ディリー』
ワリス・ディリー:著 武者圭子:訳 草思社文庫

心が折れそうになったときの特効薬度★★★★★
ひとりの遊牧民の少女が夜の砂漠へと逃げだした。“少女婚”から逃れるために。ソマリアからロンドンへ、写真家の目にとまり、トップモデルに――。だがそれは“ラッキー”ではない。試練のごとき過酷な運命と闘い、克ってきたから。アフリカの女子割礼の事実を公表、その廃絶に力を注ぐ、凛とした生き方に胸が熱くなる。

試練が人を、本来の自分に変えていく

『マリー・アントワネット』(
シュテファン・ツヴァイク:著 中野京子:訳 角川文庫

“私なんて、こんなもん”と卑屈な自分に突きつけたい度★★★★
悲劇の王妃・マリー・アントワネットの“悲劇”とは、平凡な人生を歩めば幸せだったはずの娘に運命が目をつけたこと。甘やかされ、気ままに生きてきた女性が、抗えない時代の波のなかで身に付けていくのは、毅然とした態度や誇り、真の賢さ。“不幸になってはじめて、自分が何者か、本当にわかるのです”という言葉が響く。