事件は書店で起きている!? 警察小説、人気の秘密とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 横山秀夫の『64』、高村薫の『冷血』を筆頭に、いま警察小説が書店で目立っている。ミステリーの1ジャンルから頭ひとつ抜け出し、独立したジャンルへと成長を遂げたのでは。何が読者を引き付けるのか。その本質は何か。『ダ・ヴィンチ』5月号では、ライター・北尾トロが刑事さながらにその真相究明を行った。

 ――“捜査”の第一は現場検証。世間の相場を知るには文庫売り場がいいだろうと考えた我々は、『64』(横山秀夫)の売れ行きが好調だというリブロ池袋本店で、話題書や文庫本エリアを担当する小国貴司アシスタントマネージャーへの聞き込みを行った。今回の事件、もとい、テーマは的外れではないのか。まずはそこを確認しておきたい。

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「2年ほど前まで、当店ではミステリージャンルの棚を設置していたのですが、いまはバラしてミステリー以外のジャンルとの垣根を取り払っています。そのほうがお客さんにとって使いやすい棚になるとの判断がありました」

 小国さんが話し始める。ふむふむ、なぜ使いやすいんですかい。ジャンルでまとまっていたほうがいいような気がするが。

「ミステリーの幅が広がったことや点数の増加で、ひとつの棚にまとめることに無理が生じたことがあります。他ジャンルの本と合わせても存在感があるし、実際によく売れます」

 こうした変化の象徴となっているのが警察小説だと小国さんは言う。なるほど、平台を見てもいい場所に警察小説が散らされている。安定感があるのが強みで、バカ売れはしなくても止まることなく商品が動く、書店にしてみればありがたい存在になっているらしい。私の勘は的外れではなかったようだ。メイン読者層はどんな人たちなのか。

「うちはターミナル駅近くということもあり、夕方以降よく動いていますね」

 仕事帰りのビジネスパーソンが主流だそうだが、ここにも変化はあって、これまでは中高年を中心とする男性一辺倒だったのが、女性にも売れ始めているそうだ。これは聞き捨てならない証言。これまで購買層ではなかったマーケットが興味を示すってことは、まだまだ伸びる余地があるということになる。同店では『この警察小説がすごい!』の売れ行きも上々。過渡期を迎えたミステリージャンルの中で頭ひとつ抜け出し、警察小説という独立ジャンルを形成する勢いさえ秘める。

 質も高い。『このミステリーがすごい!』のランキングを振り返りながら警察小説の足跡をたどってみようか。以前から警官や刑事が主人公の小説はたくさんあったが、改めて注目を集めたのは横山秀夫の登場以降だろう。2001年版で『動機』が2位、03年版で『半落ち』が1位、04年版は『第三の時効』で4位。以降も高値安定の人気作家に成長する。

 06年版の『隠蔽捜査』でコンスタントに作品を発表する今野敏がランクイン。翌年には佐々木譲が『制服捜査』で2位に食い込み、08年版で『警官の血』が1位を奪取。最新の13年版でも横山秀夫『64』が堂々のトップに輝いた。シリーズ物が多いのも特徴で、誉田哲也の「姫川玲子」シリーズは累計200万部を突破。映画化もされた。70年代から途切れることなく刑事ドラマがTVの人気コンテンツになっていることからもわかるように、警察ものは映像との相性も抜群なのである。

 同誌では、“現場検証”を足掛かりに、名作『点と線』の捜査ルートをたどり小説の再現まで試みながら、その魅力に迫っている。

取材・文=北尾トロ
(『ダ・ヴィンチ』5月号「トロイカ学習帖」より)