文芸・カルチャー

デビューから10年を振り返る、湊かなえ初エッセイ集! デビュー前の未発表脚本も収録!

『山猫珈琲(上)』

『山猫珈琲(下)』

 「湊かなえ」という小説家にどんな印象を持っているだろうか。

 デビュー作『告白』で、中学生による幼児殺害というショッキングな事件を巡る群像ドラマによって人の醜さや弱さを徹底して抉り出して以来、人の心を深く穿つ諸作品を発表しつづけてきた作家だから、さぞ眼光鋭く人を見据えるような……と思うかもしれない。

 そんなイメージを持っている人ほど読んでほしいのが、湊さん初のエッセイ集『山猫珈琲』(双葉社)である。

 デビューから10年間にわたって書いたエッセイのほぼ9割を上下巻の2冊に分けて収めた本書には、日々湊さんが考えているあれこれから地元淡路島の観光情報(主に食べ物)まで、幅広い話が詰め込まれている。なにせ、初出時の掲載媒体が、最大手の経済新聞から地方紙、若いOL向け雑誌、山登りを趣味とする人たちへの専門誌などなど、バラエティに富んでいるだけあって、どんな人が読んでも必ず一つや二つは琴線に触れる話題が潜んでいるのだ。

 旅好きにたまらないのは紀行エッセイだ。ニュージーランドの世界遺産・トンガリロ国立公園から、湊さん的にはご近所の鳴門の渦潮まで、遠近問わず訪れた土地でのびのびと楽しむ様子が微笑ましく、まるで一緒に旅しているような気分になれる。既婚女性なら「夫の実家の墓には入りたくない!」と主張するユーモアたっぷりの一文におもわずニヤリとするだろう。今の環境から飛び出したいけど一歩が踏み出せずにいる人なら、若かりし頃の湊さんの経験談から勇気をもらえるかもしれない。青年海外協力隊員としてトンガに渡り、現地の学校で働いていた頃の逸話などは特におすすめだ。

 勇気をもらえる、といえば、忘れてはならないのが、下巻に特別収録された2本の脚本だ。湊さんが小説家としてデビューする前、複数の脚本コンクールに応募し、入選を果たしていたことは、ファンにとっては周知のことだろう。とはいえ、そのうち一編は、これまで未発表だったため、一度読んでみたいと熱望していた向きも少なくないはずだ。それが今回、晴れて読めるようになったのである。どちらも恋愛もので、湊さんのドラマ作りのうまさはデビュー前からすでに完成されていたことを教えてくれる。今回、あえて小説家デビュー前の作品を収録したのは、今シナリオライターを目指している人たちの参考になれば、との思いがあってのこと。なんとも嬉しくなる心遣いではないか。

 また、上巻には2012年4月に出た『別冊カドカワ』のポルノグラフィ特集号に掲載された掌編も収められ、単なるエッセイ集というより、ファンブックに近いような2冊になっている。さらに、装画や挿絵のかわいい猫のイラストはある人の特別描き下ろしなのだが、それが誰かは、本を読んでのお楽しみ。とにかく、注目すべきことが多すぎて、この文字数では全てを紹介できないのがもどかしい。

 小説家が書いたエッセイを読む楽しさは、普段の作品からは見えてこない人となりに触れられるということに尽きる。『山猫珈琲』はまさにその楽しさを体験させてくれる。湊さんのあたたかさが伝わってくる、ほっこり優しいエッセイ集。寒い冬のお供に最適だ。

文=門賀美央子

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